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『……近寄らないで……惹かれ合うなんてまっぴらごめんだ』
遠くで目覚まし時計の音が聞こえる。手探りに伸ばした先でアラームを止めた。
『僕の名前は慶だよ。中條慶』
驚くほど綺麗な顔が振り向く。その姿がだんだん薄くなって消えた。代わりに視界には見慣れた白い天井が現れる。
「夢……久々に見たな」
十五年も経ったというのに記憶の中にいる初恋の人は決して色あせない。
二十九歳になった百々清埜は、軽く腹筋で起き上がり大きく伸びをした。
洗面所で身だしなみを整え、真新しいスーツに袖を通す。
「よしっ」
表情を引き締め気合いを入れた。
今日、憧れの人と再会する――。
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