……何だってするよ――あの母親から逃れられるなら。

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『あらまあ、こ〜んな簡単な問題も正解出来ないなんて、今までいったい何を勉強してきたのかしら?』 『いえ、お母様! 分からなかったわけではなく、その……少し、計算を間違えてしまって』 『あら? だったら貴女は入試(ほんばん)でもそんなみっともない言い訳をするのかしら? 一点二点が合否を分ける入試という世界で、もし計算ミスが原因で不合格になった時に、『ちょっと計算間違えただけなんです〜。だから合格にしてください〜』なんて、みっともなく学校側に泣きつくのかしら?』 『……申し訳ありません。今後はこのようなことのないよう、細心の注意で以て試験に臨みます』 『その言い訳も、もう何回聞いたと思ってるのかしら? もう11回――いえ、小学校の頃も含めたら35回ね。口先だけの反省を何度も何度も何度も耳に胼胝(たこ)が出来るくらい聞かされるこっちの身にもなってほしいものよね!』 『――っ!! ……本当に、申し訳ありません』  思わず目を閉じ顔を背ける私。手にしていた答案用紙を乱暴に投げ付けてきたからだ。 『……もういいわ。だけど――今度同じようなミスを仕出かしたら、分かってるわよね?』 『……はい。承知しております』  そう言い残し、私の返答も待たず背を向けて去っていく母。ぐしゃぐしゃになった答案用紙を拾い上げ、そっと皺を広げる。破れは見当たらないので、まだ復習には使えそう――そう思ったのも束の間、ポタポタと水滴が落ちていき、徐々に文字が歪んでいく。……やっぱり、復習にも使えそうにないや。
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