少しずつ、一歩ずつでも――

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 あの妊娠の件以降、私は夜遊びをピタリと止めた。どうして来なくなったのか――関係を持ってしまった例の男性からそんな連絡が来たので、そのまま事情を説明してもよかったけど……折角なので、こう伝えてみた――妊娠してしまいました、と。  この時点で既に陰性だと確定していたのでこれは嘘なのだけど――愚かにも、互いに避妊すらしていなかった以上、彼にはその真偽を知る術もない。なので、こう伝えればこれ以上私と関わろうとしないことは容易に想定できた。失礼ながら、そんな厄介事に真摯に向き合ってくれる人でないことは、短い関わりながら十分に分かっていたから。そもそも、だからこそ妊娠(れい)の件を当事者である彼に相談しなかったわけだし。  果たして、目論見通り彼はあっさりと私との関わりを絶ってくれた。少し呆れはしたけど、怒りも悲しみもなかった。ただ、紗雪(さゆき)さんへの感謝の念をいっそう強く自覚し、心地良く心を満たしてくれるだけだった。
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