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「冷めない内にどうぞ、百桃さん」
「ありがとうございます、紗雪さん」
リビングにて、可愛い木製のマグカップを手渡してくれる紗雪さん。ここに来た時いつも淹れてくれる、温かいココアだ。
「……それにしても、いつも申し訳ありません。このような時間に足を運んで頂くことになってしまって」
「気にしなくていいですよ、紗雪さん。私が来たいから来てるだけですし……それに、貴方がここで大家さんを続けているのも、どちらかと言えば私の都合じゃないですか」
言葉通り申し訳なさそうに話す紗雪さんに対し、軽く首を横に振り応える私。実際、彼が気にしなきゃならないことじゃないしね。
私は現在、このアパートに住んでいない。就職後、初任給が入ってすぐ別のアパートへ移り住んだから。一番の理由としては、就職を機に一人前の大人として自立したかったから。尤も、それだけならきちんと家賃を納入すればいいわけで、紗雪さんのアパートを離れる必要はなかったかもしれない。だけど、入居当初から恋人の振りをしておいて今更ではあるが、やはり同じアパートの大家と入居者がそういう関係というのはあまり宜しくはない。以前母の言っていたように、大半の居住者は彼が私を特別扱いをしていると思っているだろうし。……まあ、事実そうなんだけど。
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