少しずつ、一歩ずつでも――

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「――それに、ちょっと楽しくないですか? すっかり暗くなった頃に、こうして人目を忍んで逢うのって。なんだか、平安時代における上流階級の恋愛みたいです」 「……まあ、貴女がそう仰るなら」  そう伝えてみると、少し呆れたように淡く微笑み応える紗雪(さゆき)さん。と言うのも、私の方は既にこのアパートの住人でないとはいえ、私達の関係は総じて当アパートの居住者の歓迎するところではない……いや、端的に言ってしまえば普通に妬まれている。なので、極力人目につかないよう暗くなった頃に訪れているわけで。  ちなみに、退居理由の一つ――同じアパートにいるのが良くないからという理由を伝えたところ、それなら自身もここを出るという意向を伝えてくれた。だけど、私は首を横に振った。紗雪さんの気遣いは嬉しいけど……彼には、このアパートにいてほしかった。やっぱり、ここが私達二人にとっての居場所だと思うから。
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