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甘ったるい線香の香りが鼻をくすぶる。
僕は静かに目を開き、合掌していた手を膝の上に置く。
そして、今日も小さな仏壇へ向かって笑って見せた。
彼女の好きだった僕の笑顔を見せるため。
「毎週忙しいのに来てくれてありがとうね。
きっと・・・あの子も喜んでいるわ・・・」
「いえいえ、こちらこそ毎週お邪魔させていただいちゃってすみません」
背後にいた声の主と向かい合うことなく、いつもの感謝の言葉を述べた。
だって、僕が仏壇の前にいる時間、後ろにいる女性はいつも泣いているから。
そんな姿を見てしまったら、僕も涙を我慢できない。
また、あの日の絶望が溢れかえってしまわぬように、僕は彼女の遺骨をぼんやりと眺める。
ーもし、死人にもう一度会えたらなー
そんな非科学的で夢のような願いを、僕は心の中で反芻した。
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