1人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの子にもう一度会いたいわ。
そしたら、もうどこにもいかないように強く抱きしめたい」
赤みを帯びた眼球が哀愁を漂わせる女性は呟いた。
笑顔を作っているが、その笑顔には先ほどの僕と同じである。
いつも、彼女の仏壇に手を合わせた後は、2人で彼女の話をしている。
無論、明るい話はほぼない。
いつも会話には悲痛な思いが入り混じっている。
この時間は2人の傷の舐め合いとでも言うのが正しいだろう。
「僕は・・・彼女にもう一度会えたら・・・」
言葉が喉に詰まる。
彼女に会えたら。
その問いの答えは決まっているが、僕は口にできない。
「なに、なに?」と女性は詰め寄ってくるが、僕は金魚のように口をパクパクと開いたり閉じたりすることしかできなかった。
そんな僕を見て、女性は「ごめんなさい」と呟き視線を落とす。
その後は鳥肌が立つほど冷たい時間が流れた。
まだ夏なのに。星のない冬の夜空のように空虚な時間だった。
最初のコメントを投稿しよう!