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遠くの喧騒が大きくなってくる。
網膜が焼けそうなほどの光が視界を覆う。
光の先には人がいた。
スマートフォンの光を僕の顔面に当て続ける女性。
「健くん。わかる。和佐の母よ!」
「か、かずさ?・・・だ、だれですか」
荒い呼吸でマスク越しに答える。
その返答を聞くや否や、女性は握りつぶされた紙のように顔をしかめ、
ベットの端にあるナースコールを押した。
すぐに駆け付けた白髪交じりの中年の医者が質問を繰り返す。
「健さん。わかりますか?ここは病院です。
あなたは駅のホームから転落して、線路のレールに頭を強打し、
この病院に緊急搬送されたんですよ」
何を言われているのかよくわからない。
僕は言った。
「あの、なんで近所の鍬田(くわた)さんが居られるのですか?」
「え、それは昨日の昼間に会ったから心配で」
「昨日・・・僕はなぜ会ったんでしたっけ」
僕の言葉に鍬田さんと医者は固唾を呑んだのがわかった。
その後、鍬田さんは僕の家族に連絡をしてくると言って、
おぼつかない足取りで病室を後にした。
その後、医者が呟いた
「記憶障害か・・・」
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