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「健さんは今も独身なんですか」
「あぁ、そうだよ」
「え~、もういい年なんですから、結婚願望とかないんですか~」
僕はジョッキに注がれたビールを一気に飲み、
隣に席に座る会社の同僚に「うるさいな~」と笑い飛ばした。
同僚はケラケラと陽気に笑いながら、枝豆を摘まんでいる。
1カ月ぶりに仕事がひと段落付いたため、
今日は老舗の居酒屋で乾杯していた。
夜が深くなってきたため、客はまばらで自分たちの声が響く。
「大将、どう思います?
まだ独り身らしいですよ」
頭にタオルを巻いた恰幅の良い大将は「いいんじゃないかい」と言い歯を出してにこやかな笑顔を作る。
同僚は顔を真っ赤にしながら、僕に対してい思っていることを包み隠さず話す。
「いやいや、その年で独り身はさみしいでしょ
今度、いい人紹介しましょうか?俺の地元の人なんですけど~」
「遠慮しとくよ。僕は1人で良いんだ。
いいや、誰とも付き合っちゃいけないんだ」
「え、なんっすか?昔になんかあったんすか?」
同僚が好奇心に満ち溢れた眼光でこちらを覗き込んでくる。
「いいや、何も・・・ないかな。多分」
「なんっすか~。意味わからないですよ!」
「もう、この話は辞めだ。今日は帰るぞ」
「え、ちょっと・・・待ってくださいよ~」
僕は5千円札を同僚に渡し、大将に礼を言って店を後にした。
冬の深夜は冷える。
厚手のコートを身に纏っているが、体温は奪われるばかりだ。
「1人・・・か」
妙に同僚の言葉が心に刺さる。
孤独を望んでいるはずなのに、なぜだろう。
ふと、こんな思いがよぎる。
”会いたい”
なぜだろう。
僕には愛した人なんていないはずなのに、時々誰かとの再会を望んでしまう。
今日も僕は帰路を辿る。
隣で歩く誰かの温もりに浸りながら。
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