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俺の時には「よろしくね」と友達感覚だった。
友達?
優子の後ろにいた優子の友達がため息をついていた。彼女のその顔の表情からは、
(こりゃダメだわ)
そんな心の声が伝わって来た。
そして俺はここで恐ろしい事実に気づくことになる。
俺には友達への声掛けで、麻生には恋人への声掛けか?
優子の成績なら一ランク上の進学校を選べただろうに、それなのに、この高校に進学を選んだのは、つまり?
また会えたね。
とは、ただの友達には言わないよなあ。よほど親しい気持ちを持っていないと。異性なら、好きという。
「――!」
俺は優子の麻生への気持ちに気づいてしまった。
衝撃の事実に俺の視界が揺れた。
また会えたね。
何だこの短い一言の破壊力ときたら。
また会えたね。
うわあああ、俺にも言ってほしい!
麻生は動揺する俺を見て不思議な顔をした。
「ん? 口パクパクさせてどうしたんだ?」
こいつ、鈍感にもほどがある。
いや、俺だってそうだ。俺は優子と麻生とは中学三年間同じクラスでありながら、俺は優子の麻生への気持ちを全く読み取れなかった、今まで気づけなかった俺ときたら!
何もかもが、もどかしい!
俺はもんどり打って倒れた。地面を転がった。
「うああああっ、もどかしい、もどかしいよおお!」
「はあ? だ、大丈夫か?」
「さ、さあ。花粉症?」
「あははは!」
優子の友達は大笑いした。間違いない。俺のもどかしいという気持ちがどこからくるのか理解した笑いだった。
入学式と高校生活一日目が終わった帰り道、俺は優子の友達とばったり駅で出くわした。
彼女は俺を見て笑顔を見せてくれた。
あ、いい子だよな。
俺はそう直感した。
「また会えたね」
俺は思わずそう言ってしまった。彼女とは今日初めて会って、俺は彼女の名前はまだ知らないんだぞ、ストーカーになるぞ、この一言。
「!」
彼女は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻り、俺に言った。
「優子が麻生君に言ったまた会えたねの意味、やっぱり、わかっちゃった?」
「ああ。中学三年間、まったく気づけなかったのに、その一言でな」
これは背中を押してやらないといけない。
俺はそう思った。
でも、どっちの背中を押せばいい?
俺は優子の友達の顔を見た。
(いいよな、この子。俺はまずは自分の背中を押すべきかもな)
それで麻生と優子の背中を同時に押してやることができるかもしれない。
俺たちの恋を応援するという中で二人の距離が縮まるのだ。
彼女もそう思ってくれるに違いない。違いなかった。
<終わり>
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