ドンカン

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 今日はめでたい高校の入学式。  中学の三年間を初期化して、今日から真新しい高校の三年間が始まるのだ。  俺と悪友の麻生の高校三年間の目標は、ずばり、彼女を作ることだ。  麻生は「そうだな」とうなづき、俺に向き直って言った。 「三年間、お前を横にして歩きたくねえし」  俺もうなづいた。 「そりゃまったくの同意よ」  俺たちは同時に言った。 「抜け駆けはしていい」 「人の恋路の邪魔はするな」  そしてまた俺たちは同時にうなづき、 「彼女への告白をするときには、力になるぞ」 「承知」  ガシッと握手を交わした。  そこへ、 「あら? 暑苦しい男同士で仲が良いこと」  思わず振り向いてしまうほどきれいな声が飛んできた。  俺は声の主を確認した。  中根優子。中学三年間、俺と麻生とずっと一緒のクラスだった女子だ。  俺はしっかり握っていた麻生の手を振り払い、優子に微笑んだ。 「中根さんか。また三年間、同じ学校だ。またよろしく」  クラスが違うのが残念だった。 「こちらこそ。よろしく」  優子は美人だ。頭もいい。スタイルもいい。運動神経もいい。そんな優秀女子学生が、そこそこ頭の良い程度の高校に進学してくるとは驚きだった。近くには一ランク上の進学校があるというのに。  しかも、優子は麻生の幼なじみときた。  高校三年間の目標は彼女を作ることだと決めた俺と麻生であったが、幼なじみの子供の雰囲気からも卒業した今の優子なら、麻生のやつ、もしかして、告白もイケるんじゃないか?  こりゃスタートラインが違いすぎるぜ、麻生よ。  俺たちは人の恋路の邪魔はしないと誓いあったが、スタートダッシュ時の事故を装って麻生の足を引っ掛けてやろうかとさえ俺は思った。  麻生は優子の前であくびしてやがる。こいつ、優子を異性として全く意識していないのか? 「お? 女子高生になった優子ちゃん。新しい出会いにカンパーイってやつだな」  麻生の軽口に優子は苦笑した。 「また会えたね」  優子のその一言。  また会えたね?  なんだろう、この親しみが最大値の声掛けときたら……。
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