ニ、はじまりは

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ニ、はじまりは

そもそも、すべての発端はーー。 都一(みやこいち)宿曜師(すくようじ)が占星術をおこない、『今が五百年に一度の好機』などと騒ぎ出したことからはじまります。 都外れの山中に、鳳凰が飛来する。 かの鳥の産み落とすたまごを持ち帰り、孵ったヒナ肉を食せば不老長寿となる。 そして、その者が治める世には、繁栄と安寧が約束されるというのです。 主上は(くだん)の宿曜師を内裏へ招き、直に占いをお聞きになると、いたく興味を持たれたのでした。 『音に聞く不死鳥のたまごを持って参るように』 勅命(ちょくめい)により、たまご探索隊の人材選出がおこなわれました。 お役目をたまわった時藤さまは、他の者たちとともに鳳凰を探しに出かけることになりました。 占いによって、おおよその出現場所と時期が示されていたものの、鳳凰を見つけるまでに五年。さらに、たまごを産むまで見守って、ほぼ一年を費やしました。 あしかけ六年の長旅でございました。 鳳凰が舞い降りるなど、眉唾(まゆつば)ものと思っておりましたが、夫が実際に見たというのですから信じないわけには参りません。 言い伝えの中の鳳凰は、背丈が五尺ほど。 頭とくちばしが鶏の姿。 首は蛇のようで、胴体の前が麒麟、後ろが鹿。 あごはつばめに似て、背中は亀、尾は魚……。 とのことですが、時藤さまが見た鳳凰は、それとは少し違っていたそうです。 背は亀とはいえず、尾は魚には見えず。 ただ色鮮やかな羽を持つ、美しい鳥であったと。 「わたくしも、ひと目見とうございましたわ。かの鳥は、人の性格を見定め、立派な者や心根の優しい者を祝福するのでしょう?」 肩を落とす時藤さまのそばまで膝をすすめ、丸くなった背中をさすりました。 「わたくしは、時藤さまのお話を聞いていると、童心にかえったような心地がいたします。鳳凰がたまごを産み落とした日のお話が、とくに好きですわ」
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