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『ほれ見たことか! 逃げられてしまったではないか』
仲間たちは怒りました。
時藤さまも青ざめました。
しかしよくよく見てみると、鳳凰の飛び去った場所にはひとつ、たまごが残されておりました。
あっ、と声をあげ、探索隊の面々が集まってきました。
『たまごだ! 鳳凰がたまごをくださった』
みな、肩を抱き合って喜びました。
ようやく、主上が望んだ宝を持ち帰ることができる。そう、心の底から安堵したのです。
過酷な六年間の旅。
それもようやく、終わる。
時藤さま以外の隊員は、早く都へ帰りたいとしか思っていなかったようです。
意気揚々と帰路につき、やっとの思いで主上に献上したたまご。
ところが季節が変わっても、たまごはいっこうに孵りません。
主上はお怒りになられました。
『朕をたばかったのであろう』と、一行の費やした六年もの歳月を否定され、たまごを突き返されたのです。
その日からの時藤さまの様子といったら、まるで死人のようでございました。
旅の疲れと、心痛のあまり、何日も寝込んでいらっしゃいました。
わたくしは実家の母に相談いたしました。
すると、吉野のほうに隠居した縁者がいるから、一時、身を寄せてみるといい。今は都を離れるのがよいのではないか、と言われました。
そのような運びで、わたくしと時藤さまは、吉野の山荘で養生することになったのでございます。
「せっかく苦労して探し当てたのに、なかなか生まれないからといって、突き返すなど。主上も意地悪が過ぎますわ」
「しっ。滅多なことを言うんじゃない」
「誰も告げ口などいたしませんよ。この場所は、都から遠く離れておりますもの」
道を歩けば、絶えずどこからか、桜の花びらがこぼれる吉野山。
本当ならば、部屋に閉じこもってなどいないで、夫婦そろって物見遊山にでも出かけたい陽気でございました。
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