三、鳳凰のこたえ

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『ほれ見たことか! 逃げられてしまったではないか』 仲間たちは怒りました。 時藤さまも青ざめました。 しかしよくよく見てみると、鳳凰の飛び去った場所にはひとつ、たまごが残されておりました。 あっ、と声をあげ、探索隊の面々が集まってきました。 『たまごだ! 鳳凰がたまごをくださった』 みな、肩を抱き合って喜びました。 ようやく、主上が望んだ宝を持ち帰ることができる。そう、心の底から安堵したのです。 過酷な六年間の旅。 それもようやく、終わる。 時藤さま以外の隊員は、早く都へ帰りたいとしか思っていなかったようです。 意気揚々と帰路につき、やっとの思いで主上に献上したたまご。 ところが季節が変わっても、たまごはいっこうに孵りません。 主上はお怒りになられました。 『(ちん)をたばかったのであろう』と、一行の費やした六年もの歳月を否定され、たまごを突き返されたのです。 その日からの時藤さまの様子といったら、まるで死人のようでございました。 旅の疲れと、心痛のあまり、何日も寝込んでいらっしゃいました。 わたくしは実家の母に相談いたしました。 すると、吉野のほうに隠居した縁者がいるから、一時、身を寄せてみるといい。今は都を離れるのがよいのではないか、と言われました。 そのような運びで、わたくしと時藤さまは、吉野の山荘で養生することになったのでございます。 「せっかく苦労して探し当てたのに、なかなか生まれないからといって、突き返すなど。主上も意地悪が過ぎますわ」 「しっ。滅多なことを言うんじゃない」 「誰も告げ口などいたしませんよ。この場所は、都から遠く離れておりますもの」 道を歩けば、絶えずどこからか、桜の花びらがこぼれる吉野山。 本当ならば、部屋に閉じこもってなどいないで、夫婦そろって物見遊山にでも出かけたい陽気でございました。
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