五、たまご、孵る

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「これはとても鳳凰には見えませんね」 「うむ。でもとてもかわいいよ」 たまごから産まれたものは、鳳凰と同じ七色の羽を持つ、小さな人型の赤子でした。 手や足を伸ばしたり縮めたりして、目も鼻も口もくしゃくしゃにして。 それを見て、時藤さまだけでなく、わたくしも思わず、にっこりと笑ってしまったのでございます。 「驚いたな。これは人の子か、鳥のヒナか? なぜ背中に羽をつけているんだ」 「主上に知らせますか」 「馬鹿を言え。知らせたら、この子を取り上げられてしまうじゃないか。たまごから孵ったヒナの肉は、不老長寿の妙薬だなんて言われているしさ。引き渡したら最後、どうなるか分かったもんじゃない」 「わたくしたちが、守ってやらなければなりませんね」 わたくしが言うと、時藤さまは真面目な顔で頷きました。 「それに、鳳凰がくれたこのたまごは、わたしの願いを聞き届けてくれたようだ。 この子は人なのか鳥なのか。はたまた神なのか。何を食べて大きくなるのか。大きくなったらどうなるのか……。 わたしを夢中にさせてくれと願った。その願いを、ちゃんと叶えてくれた」 「ええ。そして、わたくしの願いも叶えてくれたのかも」 なんて愛らしい子どもでしょう。 鳳凰のつばさなど見たことはないけれど、この子の羽を見ればその美しさが想像されます。 子は親を選べぬと申しますが、この子は間違いなく、わたくしたちを選んでやって来たのです。だから、他の者がいる前では、かたくなに生まれようとしなかった。 そんないじらしい命を抱き上げると、今まで感じたことのない幸福感が、胸を満たしてゆきました。 朝の光があたたかく、まぶしく思われました。 遠くで、甲高い鳥の鳴き声がこだましました。 それは、わたくしたち三人を祝福しているように思われました。
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