47人が本棚に入れています
本棚に追加
「これはとても鳳凰には見えませんね」
「うむ。でもとてもかわいいよ」
たまごから産まれたものは、鳳凰と同じ七色の羽を持つ、小さな人型の赤子でした。
手や足を伸ばしたり縮めたりして、目も鼻も口もくしゃくしゃにして。
それを見て、時藤さまだけでなく、わたくしも思わず、にっこりと笑ってしまったのでございます。
「驚いたな。これは人の子か、鳥のヒナか? なぜ背中に羽をつけているんだ」
「主上に知らせますか」
「馬鹿を言え。知らせたら、この子を取り上げられてしまうじゃないか。たまごから孵ったヒナの肉は、不老長寿の妙薬だなんて言われているしさ。引き渡したら最後、どうなるか分かったもんじゃない」
「わたくしたちが、守ってやらなければなりませんね」
わたくしが言うと、時藤さまは真面目な顔で頷きました。
「それに、鳳凰がくれたこのたまごは、わたしの願いを聞き届けてくれたようだ。
この子は人なのか鳥なのか。はたまた神なのか。何を食べて大きくなるのか。大きくなったらどうなるのか……。
わたしを夢中にさせてくれと願った。その願いを、ちゃんと叶えてくれた」
「ええ。そして、わたくしの願いも叶えてくれたのかも」
なんて愛らしい子どもでしょう。
鳳凰のつばさなど見たことはないけれど、この子の羽を見ればその美しさが想像されます。
子は親を選べぬと申しますが、この子は間違いなく、わたくしたちを選んでやって来たのです。だから、他の者がいる前では、かたくなに生まれようとしなかった。
そんないじらしい命を抱き上げると、今まで感じたことのない幸福感が、胸を満たしてゆきました。
朝の光があたたかく、まぶしく思われました。
遠くで、甲高い鳥の鳴き声がこだましました。
それは、わたくしたち三人を祝福しているように思われました。
最初のコメントを投稿しよう!