Part.3

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「んーー」 アラームが鳴る前に目が覚めた。 眩しい光がカーテンの隙間から差し込んで、 思わず顔をしかめる。 憂鬱だ。 今日が始まると思うと、そんな思いが駆け巡る。 横に置いてあるスマホに目を向けると、 思い出したくないことを思い出してしまう。 「ばかみたい…」 生まれて初めてこんな複雑な気持ちを抱えた私から出てくるのは、そんな自嘲じみた言葉ばかりだった。 のろのろと起き上がり学校の支度をする。 玄関を出た私を迎えたのは、雲一つない快晴だった。 昨日と同じ空なのに、 こうも見え方が違ってしまうなんてなんだか不思議だ。 私は、そんな空に全く似合わない顔でゆっくりと一歩を踏み出した。 「ばいばい、優菜」 学校が終わりそそくさと帰ろうとしていた私に、 優斗はいつも通りの優しいトーンでそう言った。 清々しい笑顔を浮かべ手を振る優斗に、 少しだけ胸がざわつく。 たった一度で他の男にここまで影響されるような私に、 この人はこんな風に晴れた笑顔を向ける。 きっと優斗なら、 本当のことを知っても私を見捨ててはくれないだろう。 いや、私のために私を諦めてくれるかもしれない。 「ばいばい」 私も優斗を真似て笑顔で手を振る。 側から見れば2人同じように笑っているのに、 心の中はこんなにも違うなんて誰も思わないだろう。 優斗の後ろ姿を見届けると、私も教室から出る。 1人で歩く帰り道、街の騒音が余計に私を孤独にした。 今まで誰といても、心のどこかで孤独を感じてきた。 誰も私を見てくれない。 私が望んだ好意は一度だって手に入らない。 だからずっと、どんな時も、 満たされることなんてなかった。 それが当たり前で、だから私は、私の人生を良くしようと努力することなんてとっくに諦めていた。 だけど、水稀と話していたあの時間だけは、 今までと少しだけ何かが違った気がしたから。 暗闇に微かな光を見つけたような、 何もない砂漠の中でお宝を発掘したような、 そんな不思議な希望に満ちていた。 少しだけ、 どうしようもない明日を生きてみたくなった。 もしたった一回の電話で大袈裟だって言う人がいるなら、その人は私よりずっと幸せな人生を歩んできた人。 人生の中の何億分の1ほどの短いあの時間が、 その比にならないほどの希望になった。 それぐらい、 私の今までの人生はちっぽけなものだったんだ。
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