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「んーー」
アラームが鳴る前に目が覚めた。
眩しい光がカーテンの隙間から差し込んで、
思わず顔をしかめる。
憂鬱だ。
今日が始まると思うと、そんな思いが駆け巡る。
横に置いてあるスマホに目を向けると、
思い出したくないことを思い出してしまう。
「ばかみたい…」
生まれて初めてこんな複雑な気持ちを抱えた私から出てくるのは、そんな自嘲じみた言葉ばかりだった。
のろのろと起き上がり学校の支度をする。
玄関を出た私を迎えたのは、雲一つない快晴だった。
昨日と同じ空なのに、
こうも見え方が違ってしまうなんてなんだか不思議だ。
私は、そんな空に全く似合わない顔でゆっくりと一歩を踏み出した。
「ばいばい、優菜」
学校が終わりそそくさと帰ろうとしていた私に、
優斗はいつも通りの優しいトーンでそう言った。
清々しい笑顔を浮かべ手を振る優斗に、
少しだけ胸がざわつく。
たった一度で他の男にここまで影響されるような私に、
この人はこんな風に晴れた笑顔を向ける。
きっと優斗なら、
本当のことを知っても私を見捨ててはくれないだろう。
いや、私のために私を諦めてくれるかもしれない。
「ばいばい」
私も優斗を真似て笑顔で手を振る。
側から見れば2人同じように笑っているのに、
心の中はこんなにも違うなんて誰も思わないだろう。
優斗の後ろ姿を見届けると、私も教室から出る。
1人で歩く帰り道、街の騒音が余計に私を孤独にした。
今まで誰といても、心のどこかで孤独を感じてきた。
誰も私を見てくれない。
私が望んだ好意は一度だって手に入らない。
だからずっと、どんな時も、
満たされることなんてなかった。
それが当たり前で、だから私は、私の人生を良くしようと努力することなんてとっくに諦めていた。
だけど、水稀と話していたあの時間だけは、
今までと少しだけ何かが違った気がしたから。
暗闇に微かな光を見つけたような、
何もない砂漠の中でお宝を発掘したような、
そんな不思議な希望に満ちていた。
少しだけ、
どうしようもない明日を生きてみたくなった。
もしたった一回の電話で大袈裟だって言う人がいるなら、その人は私よりずっと幸せな人生を歩んできた人。
人生の中の何億分の1ほどの短いあの時間が、
その比にならないほどの希望になった。
それぐらい、
私の今までの人生はちっぽけなものだったんだ。
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