13人が本棚に入れています
本棚に追加
「優菜、今日一緒に帰れる?」
次の日、いつも通りそそくさと帰ろうとしていた私に
優斗が引き止めるように声をかけてくる。
私は少しだけ黙ると、振り返ってそっと笑った。
「帰れるよ」
その言葉に分かりやすく嬉しそうな顔をする優斗。
あぁ嫌だ。
その顔が、私を責めているような気がする。
こうなったのは自業自得だと、
お前は最低な人間だと、そういわれている気がする。
「優菜、今週の日曜日空いてる?」
帰り道、他愛ない話の中で急に投げかけられた質問。
予定は何も無いけど、一応考えるふりをする。
行きたいか、行きたくないかで言えば
正直微妙なとこだった。
水稀がアプリをやめるなんて言わなければ、
私は間違いなくこの誘いを断っていた。
でも、今の私に断る理由はない。
いや、そもそもこの誘いを受け入れる権利なんて
私にはない。
断ろう、そう思い顔を上げると、
期待と不安に満ちた優斗の瞳と目が合った。
出かけていた言葉が、喉の奥で詰まる。
そんな顔をされると、断りづらい。
「午後からなら、空いてるよ」
私は咄嗟にそう返してしまう。
優斗の顔から不安の色が消え、緊張が解けていく。
「ほんと!?行きたいとこあるんだけどね、」
ニコニコしながら話始める優斗を横目に、
私は複雑な気持ちをグッと押し殺した。
優斗の話に相槌を打って、
優斗と同じように笑って、
そうやって私の本心がバレないように。
本当の私を、決して悟られないように。
「じゃあ、また明日ね!」
ご機嫌な顔で手を振る優斗に、
私は小さく笑って手を振り返す。
心にできた霧のような白いモヤが、
私の笑顔を濁らせる。
優斗の後ろ姿がやけに楽しそうで、
それが余計に私を暗い感情でいっぱいにした。
家の扉を開けると
いつもは聞こえる妹の声が聞こえない。
遊びに行ってるのかなんて考えながら、私はほとんど何も入っていないリュックを机の脇に放り投げた。
家に帰ってから私がする特別なことはない。
布団に寝転がって、スマホをいじる。
それが私のパターン化されたルーティーンだった。
「はぁ…」
ため息も息をするかのように出てくる。
こんな生活をしてる自分が、心底嫌になる。
つまらないことだらけの毎日で、
いっそ消えてしまえたらなんて悲観的になる。
そんな思いに囚われないための精一杯の努力が、
スマホに逃げることだった。
最初のコメントを投稿しよう!