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いつものように家の前まで送ってくれた優斗は、
私の気持ちなど微塵も知らぬような笑顔で手を振った。
私もまた、彼に悟られないよう笑顔で振り返す。
「はぁ…」
優斗の去り行く背中を見て、
今日何度目かのため息をつく。
彼への思いと、嫌気のさす毎日に、
その不安と焦りを吐き出すかのように。
帰宅した私は、"ただいま"とリビングから聞こえる妹の声に軽く返事を返し、まっすぐ自分の部屋に向かう。
鞄を放り投げてベットに横たわる。
静かなその空間の中で、
私の息をする音だけが聞こえる。
この音が早く止まって欲しいと、
何度願ったか分からない。
生きていることに煩わしさを感じずにはいられない。
私は頭を駆け巡る問題から目を背けようと、
スマホの画面を開く。
インスタに載せられた誰かの能天気な投稿を視界から消すように、サッとスクロールを繰り返す。
ふと、ある広告にスクロールする指が止まった。
"自由に繋がるバーチャルワールド"
ポップな文字で、
大きく目立つように並べられている言葉。
現実に居場所を見出せない私には、
最適なアプリかもしれない。
興味をそそられた私はすぐに広告からストアにとんでみた。
レビューは、悪くない。
見たところ学生が多いアプリらしい。
でも所詮はネット世界。
一時の気の紛らわしにしかならないことは分かってる。
でも、馬鹿馬鹿しいと頭で理解しながら、
そのアプリに希望を見出そうとする自分がいた。
"たくさんの人がいるんだから、
いい人にも出会えるかもしれない"
そう思ってはいけないと、分かっていた。
私がこのアプリに手を出せば、
傷つけてしまう人がいる。
でもこのアプリの中に、
自分と同じ境遇の人間がいるかもしれない。
この単調な毎日から救い出してくれる人にも、
もしかしたら出会えるかもしれない。
そんな目の前にある希望を見なかったことにする強さを、私は持ち合わせていなかった。
得るものがあるのなら、やってみたい。
希望があるのなら、それに賭けたい。
私は、自分を選んだ。
内緒にすれば、私が隠し通せば、
優斗にバレることもない。
そんな浅はかな考えがいらない勇気を私に持たせた。
その瞬間、私は優斗を本当の意味で裏切った。
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