Part.1

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いつものように家の前まで送ってくれた優斗は、 私の気持ちなど微塵も知らぬような笑顔で手を振った。 私もまた、彼に悟られないよう笑顔で振り返す。 「はぁ…」 優斗の去り行く背中を見て、 今日何度目かのため息をつく。 彼への思いと、嫌気のさす毎日に、 その不安と焦りを吐き出すかのように。 帰宅した私は、"ただいま"とリビングから聞こえる妹の声に軽く返事を返し、まっすぐ自分の部屋に向かう。 鞄を放り投げてベットに横たわる。 静かなその空間の中で、 私の息をする音だけが聞こえる。 この音が早く止まって欲しいと、 何度願ったか分からない。 生きていることに煩わしさを感じずにはいられない。 私は頭を駆け巡る問題から目を背けようと、 スマホの画面を開く。 インスタに載せられた誰かの能天気な投稿を視界から消すように、サッとスクロールを繰り返す。 ふと、ある広告にスクロールする指が止まった。 "自由に繋がるバーチャルワールド" ポップな文字で、 大きく目立つように並べられている言葉。 現実に居場所を見出せない私には、 最適なアプリかもしれない。 興味をそそられた私はすぐに広告からストアにとんでみた。 レビューは、悪くない。 見たところ学生が多いアプリらしい。 でも所詮はネット世界。 一時の気の紛らわしにしかならないことは分かってる。 でも、馬鹿馬鹿しいと頭で理解しながら、 そのアプリに希望を見出そうとする自分がいた。 "たくさんの人がいるんだから、 いい人にも出会えるかもしれない" そう思ってはいけないと、分かっていた。 私がこのアプリに手を出せば、 傷つけてしまう人がいる。 でもこのアプリの中に、 自分と同じ境遇の人間がいるかもしれない。 この単調な毎日から救い出してくれる人にも、 もしかしたら出会えるかもしれない。 そんな目の前にある希望を見なかったことにする強さを、私は持ち合わせていなかった。 得るものがあるのなら、やってみたい。 希望があるのなら、それに賭けたい。 私は、自分を選んだ。 内緒にすれば、私が隠し通せば、 優斗にバレることもない。 そんな浅はかな考えがいらない勇気を私に持たせた。 その瞬間、私は優斗を本当の意味で裏切った。
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