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「なんか、
気まずくなるか不安だったけど意外と大丈夫だね」
初めとは打って変わって
緊張のほぐれたはっきりとした声でそう呟く水稀。
私も、その言葉に同意する。
「私が最初にたくさん質問してあげたおかげだね」
「まぁ、そういうことにしてあげてもいいよ」
「あ、素直に認めなよ」
「さすが、ちょー優しい」
「ちょっと、死ぬほど棒読みじゃん笑」
「ごめん笑」
そう言いながら水稀から静かに零れる笑いが、
心地よく耳に届く。
そんな調子で話に夢中になって、
気付けば4時間が経っていた。
「そろそろ寝る?」
話がひと段落したところで、水稀は眠そうな声を絞り出すようにしてそう尋ねた。
「うん、寝ようかな」
いつもなら早く切りたくて仕方なかった誰かとの通話を、続けていたいと思ったのは初めてだった。
ただ、黙ればすぐに寝てしまいそうな声を聞くと、
そんかわがままを言う気にはなれなかった。
「おやすみーー」
そう最後の言葉を交わして、
電話の向こうは静かになった。
その瞬間、自分の頬が熱く火照っているのを感じて
少しだけ我慢できなかった笑みが零れ落ちた。
耳に届く心地よい声と、
お互いの心が通っているかのように
テンポよく進む会話。
"楽しい"
そんな感情を久々に胸に抱いた私は、
電話の向こうできっと寝ているだろう水稀に
そっと微笑んだ。
時刻はすでに3時。
明日も朝早く学校があって、
普段ならこんな時間に起きていることはめったにない。
だけど水稀との通話は、早く寝なきゃいけないという焦りすら消してしまうものだった。
私は静かに目を閉じ、
夜の闇に体を預けるように眠りにつく。
"この人だーー"
私が探していた人は。
私の明日を変えてくれる人は、きっと…。
この人であって欲しい。
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