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でも、こんな罪悪感をかかえてもなお
水稀と話したいと思ってしまう愚かな自分がいた。
水稀…今何してるかな。
そんなことを考えながら、
私は水稀の声を思い出そうと目を閉じた。
冬の初めにしては暖かい風が、私の頬を撫でる。
そんな心地よい風を感じながら、
私は現実から目を背けるようにそのまま眠りについた。
ブーブーブーブーブーブー
手に伝わってくる振動で目を覚ます。
いつのまにか真っ暗になった部屋の中で、
スマホの画面だけが明るく光っていた。
私は変な体勢で寝ていたせいか痛む体を起こし、
まだ焦点のあっていない目で
スマホの画面を覗き込んだ。
どうやら親からの電話だったようだ。
時刻は8時を過ぎている。
完全に寝過ぎたことだけは、
回っていない頭でも理解できた。
私は親に連絡を入れると、
無意識にチャットアプリを開いていた。
期待は虚しく、当然のように水稀からの連絡はない。
自分から誰かになんて滅多にしないが、
話したいという強い欲に抗えず、
思い切って通話に誘ってしまう。
数十分後、スマホの前から動けなくなっていた私を、
さらに硬直させるような返信が送られてきた。
"ごめん、今日早く寝なきゃいけないからできない"
ごめんの文字で通話ができないと分かり、
自分がひどく落胆しているのが分かる。
何かが変わるという意味のない期待。
きっと受け入れてくれるだろうという根拠のない自信。
たった"ごめん"の一言で、その全てが行き場を失う。
相変わらず文面も素っ気なく、
感情はイマイチ読み取れない。
私は体から一気に活力を抜かれたような気持ちになり、
スマホを近くに放り投げた。
こればかりは仕方ない。
水稀には水稀の予定があるのだから。
同じ気持ちじゃないのは仕方のないことだ。
なんで早く寝ちゃうのって聞きたいけど、聞いたところで向こうからしたら鬱陶しいだけだろうし。
そう思うと、
水稀との間にどうしようもない距離を感じる。
当たり前のように通話できると思っていた私は、
静かな部屋に一つため息を落とした。
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