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すると、すんなりと扉は開いたのだった。
そして、出てきたのは少年。
さっきまでインターホン越しに答えていたのと同じ声だ。
「全く、何回言えばわかるんだよ!お前は誰だ!!何なんだよ!帰れ!帰れ!帰れっ!!」
その少年はおそらく小学校の高学年かそれより小さいくらいだった。
「お、落ち着いて!俺は八野圭人さんの…な、仲間!?っていうか。いや、全然仲間とかじゃないけど、知り合いなんだよ!」
「はあ!?うるせーおっさん!帰れ!」
「おっ…おっさん…」
「中島章太郎先生はお休みだ!今日は書かないし人とも会わない日だ!しっしっ!」
「あ…あのね、君、俺と八野圭人さんは、今日会うことを中島先生と約束したんだ。だから、中島先生に会わせてくれないかな?」
「…しょーこは?」
「証拠…は…?」
後ろを振り向くと、八野圭人は苦笑いして首を振っている。
いや、いやいやいや。
「えっ…とー…」
あの野郎、食事会の約束って嘘か!?
「約束ならメールでしてるはずだ。それがないなら帰れ!」
「うんうん、そりゃあそうだよね…ごめんね、邪魔しちゃって」
「ふんっ!」
バン、と扉は再び閉じられたのだった。
「…八野さん?」
「すみません。あんな子供が門番をしているとは予想外でして」
「いやいや、そうじゃなくて。メールとか電話とかして約束したんじゃないんですか?」
「それは、したというか…まあ、お願いはしました」
「はぁ!?」
「だって、押しかけられたら普通断れないじゃないですか。それに事前に連絡もしてるわけで、向こうも準備する猶予はあるはずだし」
「あなたってまさか、こうやって今まで生活してきたんですか…押しかければ断られないだろうという自信だけで?」
「そんなまさか!自信なんて曖昧なものじゃありません。経験則です!
しっかりとした実績があります。
これまでに人の家に押しかけて断られたことはありません」
「あんた馬鹿なんですか!!」
「馬鹿!?なんで!?どこがですか!?」
「どこって、何もかもですよ!!人の家に押しかけるのは常識的にあり得ないですから!」
「だから!事前に先生に連絡はしましたし、経験からして自信はあったんです!」
「だから!経験も自信も押しかけていい理由にならないんだって!!」
「じゃあどうしろって言うんですか!?メールも電話も返事はないし、事務所にもマネージャーにも話を聞いてもらえない!俺は先生に謝りたいと言ってるだけなんです!
俺だって、常識の範囲内でできることはやったんです!それでもダメだからこうして来たんです!じゃなきゃこんなこと森山さんに頼んだりしません!
誰も、僕の話を聞いてくれない。僕は納得もできないまま役を演じろと言われてるんです。
3ヶ月間全国に放送される、全国民に見せるものを、何百、何千という人が、俺を映すために働いているのに。俺の役者人生もかかった、中島先生のドラマの主役なのに。
俺は、黙って演じてろということですか。台詞を言うことはできます。でも、
俺はその台詞を一言ずつ覚えながら、その台詞を言うはずだった役者が誰だったのか、その台詞を、物語を俺が汚しているんじゃないか、そう思います。
その毎日が辛いと、許してもらいたいと、俺に演じる権利があると、台詞を書いた人に言ってほしい。
そんなのは贅沢なことなんです。
わかってるんです。
でも、そうしてもらえないなら俺はこの先、どんな気持ちで演じれば良いんですか。
俺は…ただ、この作品に純粋に向き合うために、邪魔なものを取り払いたい。
これ以上悩みながら演じるのは辛いんです。
俺の気持ちを少しでも聞いてほしいと言うのは、あり得ないことなんですか!」
八野圭人は泣き出しそうな声で言った。
「…そ、…んなことは」
俺になんて言えというんだ。
反論も慰めも出てこない。
だって俺にはわからない。
役者の辛さも、中島章太郎の辛さも。
やっぱり、俺の出る幕じゃない。
八野圭人が、肩を落として階段を降り始めた。
何と言って引き止めよう。
そう思った時、扉はまた開いた。
今度は、子供ではなく、大人の女性がいた。
「お二方。失礼しました。
門前払いをする気はなかったんですが。この子がお節介をしたようで申し訳ない。さあ、どうか中へ」
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