1.出動

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「森山さん、俺が本当に近重さんと付き合ってたとしたら、どうやって励ましてくれますか」 「もしって…」 「仮に、の話です」 「本当に付き合ってたなら、それは…辛いでしょうね… 本当に付き合ってた…んですか?」 「いえ。全く、そんな事実はないですよ。良き仕事仲間というか、同胞ではありました」 「何で聞いたんですか。もし、とか…」 「近重さんとのドラマ、やってて新鮮でした。 新人で、初めて主演もらって。 それもBLで。どんな気持ちでやったらいいのかわからなかったです。 話をもらって撮影が始まっても、男を恋人として好きになる気持ちって…やっぱり難しくて。 どうしても、恋愛感情を近重さんの役に向けるのができなくて… 少しでもできた、と思っても、監督に満足してもらうことができなくて」 「でも、すごくリアルだなと思いましたよ、素人目にですけど…」 「それは良かった。強行手段をとったおかげで、そう思ってもらえたなら」 「強行手段ってどういう…」 八野は氷の入った麦茶を飲んだ。 コップについた水滴が、テーブルにぽたぽた落ちた。 「森山さんは、恋愛感情か、そうじゃない感情か、その違いは何だと思いますか?」 「…」 「性別関係なく、この人のこと好きだなあと思うことはある。でも、その好きって、異性なら恋愛感情って断定できるほど簡単じゃない。 同性愛がわからない俺には、何を基準に、同性への好きが恋愛感情だとわかるのかも、わからなかった。 そこで、当事者の友人に聞きました。 彼にとって、何が基準に友達の男と恋愛対象になる男が別れるのか。答えは?」 八野圭人は、俺に問う。 「それは…」 “今、何考えてた?” ある人の顔と、言葉が思い浮かんだ。 その日俺は、驚きを隠すのに必死になって、あまりに完璧なタイミングで、とっさにその人を突き飛ばしてしまって、謝って… なんて、それももう10年近くも前のこと。なのに時々、唐突に思い出す。 「…わかりません」 八野圭人は、コップを置いた。 「ヤりたいと思うかどうかだ、 って、そいつは言ってました」 ヤリたいかどうかだ、なんてはっきり言ったその友人は、勇気のある人だな。 俺だったら恥ずかしくてとても言えない。 「…なるほど、まぁ…そうなんですかね」 「俺は、その言葉を信じて近重さんに相談してみました。 一度、試したらどうかって」 「はあ…えっ?何をですか」 「経験のないことを演じるのって難しいんですよね。だから俺は何でもかんでも、役作りのために実際にその役の職業から言動まで、一通り実生活に取り込んでみます。もちろんそうしなくても、演じられる人はいる。けど俺には、経験が必要なんです」 「それで、どう…試したんですか」
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