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「全然、わかりませんでした」
八野は無邪気に言った。
“今、何考えてる?”
またあの顔と声。
あれがなければ、俺は苦しまずにいられたのに。
「でもおかげで気づきました。
わからなくて当たり前だって。
最初から考えが間違ってたんです。
男も女も関係なく、役作りのために肉体関係を持つなんて普通はないでしょ。
それに、俺にも好みはありますしね。
近重さんのことは人として好きだけど、恋愛感情じゃないってことはわかりました。これからもそうはならないなって。
男同士で色々大変なことも、男同士だから楽しいことも知れて、いい経験にはなりました」
「それは、良かったです」
なんだ。
「森山さんは、どうですか?」
「何がですか」
「俺のこと、どう思いますか」
「…どう」
どう…
ドウ…おもいますか?
何だそれ。
「どうって」
「森山さん。俺のこと好きですか?」
「普通に…?何ですか急に」
「好きか、嫌いか…」
何なんだ一体!
ーーそこへ白い影。
「師匠!?」
また現れた。うちにいるはずの白い猫が。
ーー猫が嫌いな奴は嫌い、か
また師匠が喋ってる、俺だけに聞こえる。
「ひぃ"!!!猫っ、猫っ!!」
そして、また八野が猫を怖がる。
たしかに猫が嫌いな人間は嫌いだ。
「くっ、来るなっ、寄るなっ、うわあああ!!」
暴れる八野、ひょいひょい八野の周りをまとわりつく師匠。
「ちょ、危な!やめろ師匠!」
師匠の尻尾を踏みそうになった八野が、避けようとしてバランスを崩した。
そのまま倒れて、俺まで巻き込まれて…
「わっ、大丈夫ですか森山さん!!森山さん!?」
天を大きく仰いで…
“助けて”
「森山さん…?」
起き上がったはずなのに、目線がとても低い。
全身が柔らかくて、ふさふさで、なんかむず痒くて、体の毛をなめちゃったりして…
「…俺、まさか、猫に」
なんて、ありえないよ、な?
「しゃべった!?」
八野圭人は腰を抜かしている。
俺もそうするところだが、4本の短い足がしっかりと地についている。
我輩は…猫になってしまったようである。
「…おもちししょーは」
師匠は俺を見ていた。
同じ高さの目線で。
「悪かったな、とっさの判断でお前を猫にしてしまった。あのままでは悪い所を打って死ぬところだったぞ」
「師匠!」
今までは脳内に語りかけるような声だったものが、今は師匠の口から発せられた、確かな声だった。
これは、猫語を理解できているということかもしれない。
いやいや、待ってくれ。
こんなファンタジーでリアルな夢、
きっと疲れてるに違いない。
「残念ながら、俺にはお前を元に戻す方法はわからない。悪いな、森山…」
師匠が話してるなんて、変な感じ。
でも、想像通りの声だな。
それも当たり前か。
これは俺の脳内で作った夢なんだから。
背伸びをして、暖かい所を探して丸くなって、
だんだん世界が明るくなって…
ほら、ちょうど目が覚める頃だ。
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