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2.失望
「最近、なんだか生き生きし始めた気がしますよ?演技も一段と気合が入ってるっていうか…」
「やっぱり、外から見てもそうですか」
「やっぱりって、何か秘密でもあるんですか?あ、まさか八野さん…彼女が!」
「いやいや、いませんって〜!」
「ほんとですかぁ〜?全然信じられないなあー。まあ、普通いても言えませんよねぇ」
「いやほんと、そういうのじゃなくて。もっと根本的な悩みが解決したんですよ。ずっと、しこりみたいな、引っかかって気になってたものが、気にならなくなったっていうか」
「へぇー、なんかよくわかんないけど、よかったですね!」
「いや、ほんとよかったっすよ〜」
「じゃあ佐久良はずっと…
ししょー…じゃなくて
…猫だったんだ…?」
何言ってんだ俺。
人間の佐久良は俺と同じく大人で、そして、なぜだか見慣れたような顔。
それはもちろん、猫としての佐久良を見てたからなんだろう。
俺が渡したTシャツは、少しサイズが大きいようだった。
佐久良は口をもごもごさせている。
「もしかして、声、出しにくい?」
「あ…、ああ…」
佐久良は小さく言った。
人間の声の出し方を思い出しているみたいだった。
「あの…佐久良はさ…何で、猫になったのかな」
「…何で…だろうな」
「わかんないか…」
「猫になってからの記憶は?いつから?俺に飼われるまでは?」
「わかんねー…けど…猫の時の記憶は、ある」
「そうなんだ…。ごめん」
「何で」
「だって、猫だと思ってたから、恥ずかしいこともさせただろうし…」
「はずかしいって…こういうの?」
佐久良は、俺の頭を撫でた。
突然だったので、体が固まった。
「ああ…うん、まあ」
手が大きい。佐久良は人間だ。
でも、ししょーと同じ匂い。
どちらかといえば、恥ずかしいのは俺の方かもしれない。
猫だと思って、自分の子供みたいに可愛がったりじゃれたりして、でもその相手が本当は人間だったんだから。
「…それと、これも」
佐久良は、俺の喉を猫をくすぐるように触った。
「うわっ」
佐久良は俺を壁に追いやって迫った。
「猫なら喜ぶものも、俺は感覚が人間のままだった。だから…」
「い、嫌だったんだ!ごめん!!」
怒ってる…
佐久良はようやく人間になった今、今までの気持ちを全部吐き出そうとしている。
「俺、猫飼うの初めてだったから…世話の仕方とか詳しくなくて…」
「これまでお前が俺にしてきたこと、覚えてるよな?」
怒っている、凄んでいる声も、ちょっと猫の頃の鳴き声と似ているような気がする…
「…ふ、」
ししょーが喋ってる。
「…今…笑ったな?」
「違う!違くて!」
「人が真剣に話してるのに」
「申し訳ありません…」
俺は佐久良に謝った。
あの頃のように。
「嫌だった…よな。
よりによって、猫になって…こんなのに飼われるなんて…」
「お前にくっつかれるのは不快だった」
「…すみません」
「でも、俺がお前を選んだんだ」
「…え…?」
選んだ?
「俺が、お前を飼い主にしてやった」
「な、何で…?」
「俺が猫になったのは、お前のせいだから」
「…俺のせい?」
何、だって?
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