2.失望

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* 何とか受験勉強を乗り越えた。 そして高校時代、 俺は別の心療内科に通っていた。 「どう、学校は?」 「特に…変わりありません」 「ぼちぼち行こう。気負わずにね。薬は同じにしておきましょう」 「はい、失礼します」 流れ作業の診察。 だが、それでいい。 俺だって来たくて来てるわけじゃないから。 レビューを見ればクリニックの評価はどこも低い。 どれも病んだ者の鬱憤不満の垂れ流しだ。 真っ当な批判もあるが、八つ当たりとも思える怒りの星1レビューも。 追い出されただの、話を聞いてくれないだのと。 他人の心を癒そうと志し医学に勤しんだ結果、こんな袋叩きにあうばかりか。 俺ならこんな奴らの相手はしてられない。 医者もご苦労なことだ。 だが門を叩くものは後を絶たず、 騒ぐならつまみ出せばよい。 掃いて捨てるほど病んだ者はいる。 みんなどこかマトモではない、 そういう病気だから。 親切に手を差し伸べたらビンタされる、 それでも手を差し伸べる。 どうして、こんな奴を助けなきゃいけないんだと、見捨てたくなりもするだろう。 実際に、患者に暴言ばかり吐く医者もいる。悪化させることもある。 我々は、雲よりも不安定な精神で、 地雷でできた道を、 爆発させないようそっとそっと、 たまに怪我を負いながら、 前に進む人たちの背中が遠ざかるのを悲しげに見つめる。 自我すら保つのも危うい、 時には意識も朦朧としていて、 それでも立っていようとする。 だから、差し伸べられた手が、 敵なのか味方なのかもわからず、 すがりついたり恐れて振り払ったりする。 霧の中を歩いている。 SOSを送っている。 届いたと思ったら、救助ではないものが来る。 銃を持って襲撃しに来る。 30回に1回くらいの確率で、支援物資が届く。 俺や、ここで診察を待つ人達は、きっと雪山の遭難者のようなものだと思う。 凍え、震え、幻覚や幻聴、空腹や渇きに苛まれながら、空に向かって信号を送って耐え忍んでいる。 いつかここから抜け出せる。 いつか誰かが助けに来る。 それまで、手持ちの微かな装備と非常食で生命を保っていよう。 もう、何のためにこの山に来たのかもわからない、どこから来たのか、どこへ向かっていたのかわからない。 ただ、今は、生きていなければならない。その本能に必死に生かされている。 微かな灯火のような本能に生かされている。 ここは遭難者と山の外との境界線だ。 SOSを発することができた、そして、あの扉の先に支援物資があることを願うものが待っている。 そんなことを考えながら、生活感を排除した待合室のBGMに耳を傾けていた。 待合室には、別世界に吸い込まれるような謎めいた力がある。 こうやって考え事が止まらなくなり、何を待っているのか忘れることもしばしばだ。 そろそろ会計に呼ばれるか。 「25番の方」 診察室から医師が顔を出した。 「25番の方、いらっしゃいますか」 しばらくして、ようやく25番はやって来た。 25番は、帽子を深くかぶっていた。 25番は程なくして診察室を出た。 その時も、帽子を深く被り直した。 俺は会計を終えエレベーターへ向かうと、25番は会計に呼ばれた。 その患者が会計に応じる背中と声に、 覚えがあった。 なんとなしに振り返ってみると、帽子の下が見えた。 「佐久良…?」 顔を知る者同士が出くわせば、番号で名前を伏せようと分かってしまうのだった。 エレベーターが来るのは、その日に限って遅かった。 1階を押すと、隣に25番がいた。 「俺がここに通ってるとか言いふらしたらぶっ殺す」 「言わないよ」 「俺はお前とは違う」 「わかってるよ」 「クズ山のくせに、何がわかんだよ」 「…すみません」 何で俺が謝ってるんだ? 「お前違うとこ行けよ。薬もらうだけならクリニックいくらでもあるだろ」 「無理だよ、先生を探すの、大変だし…」 「じゃあどうすんだよ。俺に、お前と同じ場所に通えってことか?…お前と主治医同じとか、ありえねー」 俺だってありえない… 「よ…予約日がかぶらなきゃいいよね… 予約する時言ってくれれば避けるし…」 やっと来たエレベーターに律儀に乗り込む。 「何でお前に一々俺が、連絡しなきゃなんねーんだよ」 「じゃあ、佐久良が病院変えれば…」 「は?俺は今日が初診だし」 「だから、俺だって病院変えるの嫌…」 「何でお前に合わせてやんなきゃなんねーんだよ」 1階についた。 「とにかくお前はここに来んな、迷惑」 「…あ、後から来たのは佐久良だろ、 俺の方が先にここに通院してたし」 俺がこいつに口答えしてるなんて。 弱みを握ったからか、診察が終わって安心したからか。 エレベーターから降りた。 「…」 バスが通りを塞ぐ、人通りの多い街中を歩いた。 「ついてくんな」 「俺も薬局に行くから」 二人とも処方箋を裸で手に握っている。
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