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それが俺の猫なのか。
「何で笑ってるんですか?」
「あ、すみません」
喋れる。
八野圭人の話を聞いている途中だった。
猫が人間になって、俺も猫になって、
また人間になって、
それから数日。
「とにかくこれは真剣な話です。
…俺、近重さんの家に行きました。
ご家族に許可をもらって。」
「近重さんの家族は、近重さんの消息を知ってるんですか?」
「いや、行方はわからないと言ってました。でも、死んでなんかいないと。
絶対に生きていると。
それで…」
「…何かわかりましたか?」
「実は、見てほしいものがあります」
八野圭人は、俺の家で、紙袋を取り出した。
小さな箱を机の上に置く。
茶の入ったグラスが少し揺れる。
「…それは?」
「これが原因だったんです」
「原因?」
八野は小さな箱を開いた。
「…指輪、ですか」
「ペアリングです。一つ、欠けています」
「本当ですね」
「これを見つけて、何となくですけど、ピンと来たんです。それで、指にはめて見ました」
「…それで?」
「実演します」
八野は二つ分空いた穴のうち、一つにハマっていた指輪を手に取る。
びっ、と静電気が走った。
「わっ」
指輪はぐわんぐわんと、一人でに、磁石に全方位から引っ張られているように、意志を持っているかのように動く。
キーン、と耳鳴りがして、部屋全体、そこら中の空気が震える。
俺は不快な音に顔を歪め、耳を塞いだ。
「何だこの音…!」
「これをっ…捕まえた!」
八野が、その不快な現象の中心であろう指輪を、力づくで指に嵌めた。
すると、指輪はスッと落ち着いた。
「……何ですか今の。あ、手品?」
八野は神妙な顔をした。
「これは、呪いですよ」
「…はぁ」
「近重さんの呪いです!!
それか、その周りの、多分彼女か誰か…
この指輪を近重さんと一緒につけるはずだった誰かの怨念が、
こうして現れてるんです!」
「そう…なんですかね?」
「そうとしか考えられないです。
そして、森山さんが猫になったことも、何か関係があるのかもしれないです」
「それで、どう関係が?
近重拓実と僕は、何の面識もありませんよ。
ましてや、彼に呪われる心当たりもないですし」
「本当に?」
一瞬で後悔した。
「ありませんよ。そもそも、俺たち一般人にとっては、あなた方は別世界の人なんですから」
「確かに、そうかもしれません…」
ごと、と、テーブルのグラスが動いた。
「わ、地震かな?」
八野が言う。
ごと、ごとごとごと…
地面が沸騰する水面に揺られるように、
小刻みに激しく揺れる。
ペンダントライトも、ぐらんぐらんと揺れている。
「震度…3ぐらいですかね」
八野がテーブルの淵を掴みながらテレビをつけるが、画面には速報も何も映らない。
「揺れが強くなってます!外に出ましょう」
「外の方が危ないかも…」
「歪んでドアが開かなくなります!」
八野はそう言って、俺の手をとって玄関へ走った。
つま先に靴を引っ掛け、扉を開けて、外へ飛び出した。
眩しい光で目が眩んだ。
「……収まりましたね」
八野は言い、俺の手を離した。
「そう、ですね」
「…ところで、ここは?」
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