1.出動

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久々の優雅な休日だった。 俺は珍しく早起きし、洗濯物を干した。 これから朝食を作る。 冷蔵庫には何もなかった。 「…そうだった…買い物行くの忘れてた…」 せっかくの休みの朝だというのに、食料がないなんて。 玄関の呼び鈴が鳴った。 「はーい」 扉を開くと。 「おわぁっ!!!」 ながーーい、足、 の先端が扉の隙間に滑り込んだ。 「閉めないでくださいっ!」 そして、あの顔。 「何してんですか八野さん!自宅ですよ!てか社宅ですよ!てかオートロックですよ!」 なぜ、どうやって、なにが、だれが? 多分真山さんだろうな! 「森山さん!今日の約束をもう一度考え直してもらえないでしょうか!」 「休日にこんな所まで来て何なんですか!警察呼びますよ!」 やっぱりこいつはヤクザだ! 爽やかに強引、顔が良いので許されてきた俺様! 典型的少女漫画系男子か!? 「ふーん、おもしれー男」 とでも言い始めるつもりか! 最初は良いだろう、若いうちは良いだろう、多少の強引さと思い切りの良さは余裕のある男に見える! それがモデルで綺麗な顔ならときめきもするだろう! しかしそれが現実にいたらどうだろう、よく考えてほしい。 そいつは後々君にモラハラをしてはこないだろうか! 「中島先生のファンなら、協力してくれてもいいでしょう!」 「中島先生とはこんな形で会いたくありません推しには認知されたくない派なんです!」 そしてお前のようなヤクザには関わりたくない! 「ドラマの新しい台本が入手できました!まだ社内にも届いてないはずです!読ませてあげるから協力してください!」 「だから、無理だって…」 扉の行き来が止まった。 「………台本!!??」 「どうぞ、ごゆっくり読んでください」 結局、招き入れてしまった… クソ、こんな簡単な罠に釣られるとは。 俺はなんてバカなんだ。 いや、もうこの際バカでいい。 現場によっては台本が回ってくることもあるのだが、中島先生の脚本、つまり、それが印刷された台本というのはあまりにも貴重。 「…これを読ませてもらったからといって、その…何だか知りませんけど、食事会とか、協力とか、できませんからね」 「あ!手ぶらで来るのも不躾だろうと思いまして…」 無視か。 「こちらもどうぞ」 黄色い紙袋。 かの有名な菓子屋の代物だ。 確かに腹は減っているし俺は生粋の甘党、 朝食から菓子パンなんてこともザラにあるので今すぐ何でも食いつく。 しかし。 「また貢物を…休日に押しかけて玄関先で騒ぐのは不躾ではないと?近所迷惑もいいとこです」 「はは…さ、そう言わずにどうぞどうぞ」 八野は紙袋から紙箱を取り出し、その中から丸く黄金色のふんわりしたそれを取り出した。 まるでしっとりふわふわメロンパンだ。 重みもありそうで、丁寧に薄紙で包まれている。 「……」
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