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占い師は路地裏でキョロキョロとしている僕を呼び止めて、手招きをした。近よると、良いものをあげるね、と言ってたまごを取り出した。
「このたまごから虹色の目をしたヒヨコが生まれたら、24時間以内に願いごとを言うんだよ。それがどんな願いでも、きっと叶えてくれるから」
占い師は、僕の手をぎゅっと包むようにしてたまごを握らせてきた。産みたてのような温かさが、手の中にぽわっと広がった。
暗い路地裏の中で、淡く光っているように感じた。
「このたまごはね、キミ以外の誰にも見えないんだ。でも見えないかどうか確認してはいけないよ。それに、このたまごのことを誰かに話してもいけない。その瞬間、たまごは死んで冷たくなってしまうからね」
占い師の注意に、当時の僕は怖くなって震えた。願いごとうんぬんはともかく、いま手の中で感じている命の温もりが僕の言動ひとつで無くなってしまうだなんて。
怖くて、でも言いつけは守らなきゃと思って、決心を固めるためにぎゅっと目を閉じた。目を閉じても、たまごは温かい。生きてるんだ。
目を開けると、占い師はいなかった。それどころか、路地裏ですらなかった。
道に迷ったことが嘘だったかのように、僕は大通りの隅っこに立っていた。
でも、夢じゃない。手の中の温もりがそれを教えてくれていた。
大切に持って帰った次の日には、貯めていたお小遣いでたまごが一個だけ入る専用のケースを買った。
キミのおうちだよ、と言いながらそっと入れた。
ヒヨコのイラストが描かれたケースを机の上に置いて、ときどき開けてはまだかな、まだかな、と生まれるのを楽しみに過ごす日々が始まった。
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