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中学生になり、高校生になってからも、僕はずっとたまごと一緒に暮らしていた。
毎日2回、よる寝る前とあさ起きてすぐケースを開けてたまごを取り出し、手のひらで包んでぬくもりがあるのを確かめた。
今日もちゃんと、温かい。生きていることが嬉しかった。
よる寝る前は、その日にあった出来ごとを簡単にまとめてよく話していた。
修学旅行などで一泊以上家を空けるときは、たまごを入れたヒヨコのケースをバッグに忍ばせ、こっそり連れていった。
留守の間に生まれて24時間が過ぎるのも嫌だったけれど、生まれる瞬間を自分で見たいという気持ちの方が強かったと思う。
旅行先でもたまごは誰にも見つからなかったし、誰にも話しちゃダメだという言いつけもずっと守っていた。
布団にくるまって取り出したたまごは温かい。この命の温かさが、秘密にしていることを喜んでくれている気がした。
もしその頃に虹色の目をしたヒヨコが生まれていたらどうしただろう。好きな子が振り向いてくれるようにお願いしたかもしれない。
きっと、それくらいの悩みしかなかった。誰を好きだとか、誰と誰が付き合ってるとか、そんな話を同級生たちと夜通ししたり、まくら投げをして先生に怒られたり、覚えているのはそんなことばっかりだ。
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