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大学に入ってからも付き合いは続いたが、別れるの別れないののケンカも何度かあった。告白と同じで、ケンカも全て彼女から申し込まれたものだった。
だから、これだけは自分からしようと思っていた。就職して6年目、29歳のとき。
「僕と結婚してください」
彼女を迎えにいった車の中でプロポーズした。電車の駅のそばの、僕が契約している駐車場で。
彼女は驚いていたけれど、すぐに笑顔になって返事をくれた。待ってたよ、とか、遅かったね、とかでもなく、ひと言だけ。
「はい」
友人に招待されていた結婚式の帰りで、ドレスに身を包んでいた彼女。何もつけていなかった左手の薬指に、僕は準備していた指輪を通した。
近くの踏切から、カンカンカンという音。警告の音が、祝福の音に聞こえた。
その頃ひとり暮らしをしていた僕は、家に着くなりポケットの中を確認した。
忍ばせていたヒヨコのケースを開けると、たまごはちゃんと、たまごのままだった。
あの日と同じように、僕はベッドの上で飛び跳ねた。今度はちゃんと自分から出来たぞ、と。
手のひらでたまごを包むと、今までよりも少しだけ温度が上がっている気がした。
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