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その後は生涯ひとり者だったけれど、よくがんばったと思う。明るく元気だった妻に誇れるくらいには、まっすぐに生きた。
辛いことや寂しいときがあっても、2人で旅行した場所を巡っては、思い出を何度もたまごに話しかけて生き続けた。
ときどきたまごは震えていたような気もする。同じ話ばかり聞かせてしまったから、呆れていたのかもしれない。
「はい、消灯時間ですよー」
看護士さんが電気を消し、病室が暗くなった。ずいぶん長く生きてしまったが、そろそろ妻の元へいけそうだ。
ベッド横の棚に置いたヒヨコのケースからたまごを取り出し、両手に乗せて顔の前で眺める。
淡い光があたたかく、やさしい。生まれてくれなくて、良かったのかもしれない。ずっとそばにいてくれた。
「キミのおかげで寂しくなかったよ」
その時、まるで返事をするかのようにたまごが震えた。ピシ、とヒビが入る。
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