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両の手のひらの上で、たまごが割れた。
あたまをぷるぷると振って、殻の上半分を飛ばして現れたのは、本当に虹色の目をしたヒヨコだった。
うるんだ瞳で、じっとこちらを見ている。
「やあ、はじめまして」
親指の先で、あたまを撫でる。ヒヨコは気持ち良さそうにして、体をすり寄せてくる。
「僕はもうおじいさんになってしまったけれど、ずっと、キミに会ってみたかったよ」
「私も、会いたかった」
口を開いたヒヨコの声。忘れるはずのない、声。
「ずっとあなたのそばにいられて、うれしかった」
妻の声だ。何十年ぶりに聴いても、間違えるはずがない。
「ずっと一緒だったのよ。あなたが思っているよりも、ずっと。何度も旅行に連れて行ってくれて、ありがとう。毎日話しかけてくれて、ありがとう。ずっと好きでいてくれて、ありがとう」
手のひらで、妻を包み込んだ。あったかい。あふれる想いが、止まらない。
「ねぇ、あなたの願いごとはなぁに?」
ヒヨコになった妻が、首を傾げてかわいく聞いてくる。
僕の、願いごとは。
「もうないよ。いま、叶ってる」
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