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「このカレーの味、あんがい、わるくないね」
と、ウメちゃんは言った。
スーパーで半額になっていたカレールーだった。ウメちゃんは、やっぱりいつものルーを買えばよかったかな、としきりに言いながら料理を進め、最後、味をした後であっけらかんと言った。
わたしはダイニングテーブルにつき、お風呂あがりの缶ビールを飲みながら、それはよかったねえ、とのんびり言った。
わたしの姉にはそういうところがあって、たとえば、食後に白湯を飲んでいるときには、「ただでさえババくさい名前なのに、行動までババくさくて嫌だなあ」と顔をしかめたかと思えば、「でも、冷えは乙女の大敵だから、サクラコも飲みなさいよ」と言ってきたり。
「もうちょっとで、できるからね」
ウメちゃんはキャベツの千切りを始める。小気味よく続く包丁の音は、聞き慣れた、ウメちゃんの証みたいな音だったから、わたしは安心した。
我が家の定番で、カレーライスの付け合わせとしてキャベツの千切りを用意する。それを、職場の同僚に言ったら珍しがられたとウメちゃんがしょげていたこともあった。「でも、サンマに大根おろしをつけるようなもんだし」と言うから、「そうだそうだ」とわたしは調子よく言って、確かそのときもこうやってビールを飲んでいた。
カレーのにおい、ウメちゃんの鼻歌、のどを流れるビールの冷たさ、夕食の気配、幸福の景色、わたしはそういったウメちゃんとの時間を特別に愛していた。
だから、その通りにわたしが伝えると、
「わたしはサクラコの、そういう、ストレートに気持ちを伝えてくれるところ、大好きだよ」
と、ウメちゃんは言った。
ウメちゃんがカレーを盛り始めたから、わたしも隣に立ち、手伝う。
「わたしね、フラれちゃったんだ」
と、ウメちゃんがポツリと言う。
「うん、知ってる、だってウメちゃん、ずっと泣いてたから」
「そっか、そうだよね」
わたしは、ウメちゃんがまた泣いちゃうんじゃないかと思った。夜、自分の部屋で毛布をかぶって泣いていたり、湯船につかりながら泣いていたり、最近はずっとそうだったから。
ウメちゃんの小さな肩を抱き寄せた。涙ぐんだ声といっしょに小さく震えていた。
「でも、
わたしにとってのサクラコの大切さとか、
どんなときにだってお腹が空くこととか、
あらためて実感するから、
フラれるのも、あんがい、わるくないね」
わたしの姉はいつも不安がって、強がって、最後にはその強さを本当にしてしまうんだ。
カレーライスは大盛にしても、まだたくさん、鍋に残った。
「つくりすぎちゃったかも」とウメちゃんが言うから、
「いいんだよ、だってさ……」
わたしたちはうなずきあって、
「明日の方が、もっとおいしいカレー」と声をそろえる。
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