20

1/1
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ

20

僕は早速、職員のお姉さんにより孤児院の面々に紹介された。 こちらの世界には個人情報保護法などないから、僕の偽情報は全て説明されたのだ。 「ふーん」 「貴族あるあるだね」 「ふん。私のほうが不幸よ」 「どうでもいい」  「興味なし」 なかなかの反応だ。 「エンくん、自己紹介して」 「はい」   自己紹介しろと言われても、お姉さんがほとんど全て話したけど。 「僕は将来、小さな定食屋を開きます。そして、ここで結婚相手を探したいと思います。よろしくお願いします」 どうだ、完璧な自己紹介だろ。 「アホか」 「間抜けね」 「孤児院出身者に誰が保証人をしてくれる」 「店なんて持てるか、馬鹿野郎」 「興味なし」 うんうん、なかなかの反応だな。 完全に無視されるより1万倍は好意的だ。 「はい、みんなケンくんをよろしくね。さあ、晩ごはんにしますよ」 どうやら今から晩ごはんらしいな。 この孤児院には院長と職員が5人。 在籍している孤児は20人で10歳から15歳までが在籍している。 16歳になると孤児院は強制卒業なのだ。 10歳未満の孤児は貴族が養子として引き取ることが多い。 10歳でどんな魔法の兆候がでるかわからないからだ。 ある意味で宝くじを飼うようなものだ。 当たれば大儲け。外れたら孤児院送り。 貴族にリスクは少ないのさ。 さて、晩ごはんか。   目の前には硬そうなパン、野菜くずのスープ、何か分からない魚を焼いたもの。 こんな不衛生な物を食べれるか。 ガツガツと食べている豚みたいな奴にスッと差し出した。 「ぶひっ?」 「食べてくれ」 「ぶひ? ほんまに?」 「うん」 「おおきに」 お前、大阪出身か? 「エンくん、どうしたの?」 「……」 「エンくん?」 あ、僕がエンくんか。 「あの、食事も料理魔法で出していいですか?」 駄目なら僕は王宮に帰る。 「え? 出せるの?」 「はい」 「それは助かるわ〜」 「え?」 「食費が1人ぶん減るからね」 「なるほど」 孤児院引っ越し初日だから、ステーキと握り寿司にしておくか。サラダとスープも出すぞ。  定食じゃないのか? それは定食屋の仕事で出すものだ。 プライベートでは食べたいものを食べる。 「いただきます」 うん、美味い。 「エンはん」 「ん?」 「それ、わてにも、もらえまへんか?」 豚にやる餌は持ってないぞ。 「無理だ」 「ぶひー」 泣くな、豚野郎。 「僕の食べかけを親友に食べさせるわけにはいかない」 「ぶへっ?」 同じ物を料理魔法で出してやった。 「親友よ、食べてくれ」 「え、エンはーん」 「触るな、豚野郎」 「ぶひ?」 「あ、いや、僕は感覚過敏なんだ。触られるのは好きじゃない」 「あ、すんまへん」 「いや、それより食べてくれ」 「ぶひっ。ぶもー! うまー!」   お前は牛でも馬でもなくて豚だろ。 「あの、エンくん」 「……」 「エンくん?」 あ、僕のことか。 「はい」 「エンくん、少し耳が悪いの?」 「まあ、ちょっとだけ」 「そっか」 嘘です。聞こうと思えば100キロ先の内緒話も聞こえます。 「何か」 「もしかして、凄い料理魔法使いのエンくんなら、25人分の食事をいっぺんに出せたりする?」 「ふっ。僕の料理魔法なら簡単なことです」 「ありがとう、エンくん」 「え?」 何が、ありがとうなんだ?
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!