31人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
20
僕は早速、職員のお姉さんにより孤児院の面々に紹介された。
こちらの世界には個人情報保護法などないから、僕の偽情報は全て説明されたのだ。
「ふーん」
「貴族あるあるだね」
「ふん。私のほうが不幸よ」
「どうでもいい」
「興味なし」
なかなかの反応だ。
「エンくん、自己紹介して」
「はい」
自己紹介しろと言われても、お姉さんがほとんど全て話したけど。
「僕は将来、小さな定食屋を開きます。そして、ここで結婚相手を探したいと思います。よろしくお願いします」
どうだ、完璧な自己紹介だろ。
「アホか」
「間抜けね」
「孤児院出身者に誰が保証人をしてくれる」
「店なんて持てるか、馬鹿野郎」
「興味なし」
うんうん、なかなかの反応だな。
完全に無視されるより1万倍は好意的だ。
「はい、みんなケンくんをよろしくね。さあ、晩ごはんにしますよ」
どうやら今から晩ごはんらしいな。
この孤児院には院長と職員が5人。
在籍している孤児は20人で10歳から15歳までが在籍している。
16歳になると孤児院は強制卒業なのだ。
10歳未満の孤児は貴族が養子として引き取ることが多い。
10歳でどんな魔法の兆候がでるかわからないからだ。
ある意味で宝くじを飼うようなものだ。
当たれば大儲け。外れたら孤児院送り。
貴族にリスクは少ないのさ。
さて、晩ごはんか。
目の前には硬そうなパン、野菜くずのスープ、何か分からない魚を焼いたもの。
こんな不衛生な物を食べれるか。
ガツガツと食べている豚みたいな奴にスッと差し出した。
「ぶひっ?」
「食べてくれ」
「ぶひ? ほんまに?」
「うん」
「おおきに」
お前、大阪出身か?
「エンくん、どうしたの?」
「……」
「エンくん?」
あ、僕がエンくんか。
「あの、食事も料理魔法で出していいですか?」
駄目なら僕は王宮に帰る。
「え? 出せるの?」
「はい」
「それは助かるわ〜」
「え?」
「食費が1人ぶん減るからね」
「なるほど」
孤児院引っ越し初日だから、ステーキと握り寿司にしておくか。サラダとスープも出すぞ。
定食じゃないのか?
それは定食屋の仕事で出すものだ。
プライベートでは食べたいものを食べる。
「いただきます」
うん、美味い。
「エンはん」
「ん?」
「それ、わてにも、もらえまへんか?」
豚にやる餌は持ってないぞ。
「無理だ」
「ぶひー」
泣くな、豚野郎。
「僕の食べかけを親友に食べさせるわけにはいかない」
「ぶへっ?」
同じ物を料理魔法で出してやった。
「親友よ、食べてくれ」
「え、エンはーん」
「触るな、豚野郎」
「ぶひ?」
「あ、いや、僕は感覚過敏なんだ。触られるのは好きじゃない」
「あ、すんまへん」
「いや、それより食べてくれ」
「ぶひっ。ぶもー! うまー!」
お前は牛でも馬でもなくて豚だろ。
「あの、エンくん」
「……」
「エンくん?」
あ、僕のことか。
「はい」
「エンくん、少し耳が悪いの?」
「まあ、ちょっとだけ」
「そっか」
嘘です。聞こうと思えば100キロ先の内緒話も聞こえます。
「何か」
「もしかして、凄い料理魔法使いのエンくんなら、25人分の食事をいっぺんに出せたりする?」
「ふっ。僕の料理魔法なら簡単なことです」
「ありがとう、エンくん」
「え?」
何が、ありがとうなんだ?
最初のコメントを投稿しよう!