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僕は魔法が使えない。まったく使えない。
凄い魔法やしょぼい魔法、使える魔法には個人差こそあれ、10歳を越えた頃からみんな何かしらの魔法が使える。
魔法が使えない人の話は僕は聞いたこともないし、両親も知らないらしい。
体内に魔法の器官があって、10歳頃には器官が発達して魔法が使えるようになるんだとか。
しかし、僕はもうすぐ12歳になるのに魔法が使えないのだ。
僕の家は農家だから、両親は「ま、まあ、ずっと魔法が使えなくても、美味しい農産物を作れば生きていけるからな」とか言ってくれるけど。
これが貴族家だったらやばかった。
貴族家では魔法の力が全て。
なんでも、12歳になってもしょぼい魔法しか使えない子供は、勘当されて孤児院へ追放されるか、下手すると密かに事故扱いで存在を消されるとか言われている。
やれやれ、農家に生まれて良かったよ。
と、思っていた。
家の畑から、凄いお宝が出てきたのだ。
「ちょっと今年はいつもより深く耕してみるか」と、父さんがちょっと深く耕したら、金銀財宝がわんさかと。
なんでこんな所に金銀財宝が?
なんでか分からないけど。
我が家の耕作地は領主様が管理している王国の領地だけど、賃料を払って父さんが借りている土地だ。
この場合、そこに埋まっていた金銀財宝は、半分は王国の物で、半分は父さんの物になるらしい。
突然の大金に怖くなった両親は、国王様に全ての金銀財宝を献上した。
それはかなりの金額だったそうな。
そして、その見返りに、父さんは男爵位をもらった。
そう、我が家は貴族家になったのだ。
僕はマドソン村の名字もないケリーから、男爵家のマドソン=ケリーになった。
貴族名簿を見せられて「この中に無い好きな名に決めろと」言われた父さんは、「では、マドソンにします」とマドソン男爵に決めたらしい。
僕の住む国では貴族様か凄く有能で国に貢献した人じゃないと名字がない。
それはそれとして、新男爵家のマドソン家には領地がない。
ポッと出の貴族にすぐに提供できる領地なんて余ってないのだ。
正確にはほとんど人の住んでない辺境の地とかあるんだけど、その土地を領地にするか王城内の農地で王族用の農産物を作るかどっちを選ぶ? と聞かれた父さんは、王城内の農地を選んだ。
まあ、そらそうだよね。
でも僕は学校も無いような辺境の地のほうが良かったかも。
貴族様の子供は12歳から18歳まで王都の王国学園に通わないといけないらしい。
でも、王都からすごく遠い領地の貴族の子供は特例で家庭教師でも良いとか。
凄い魔法が使える見込みの子供は、いくら遠い領地からでも王国学園に入らないといけないらしいけどね。
魔法が使えない僕は家庭教師のコースが選べたのに。
マドソン村から王城内の農地横に建てられた家に引っ越しが終わり、明後日から王国学園へ僕は入学する。
明日、僕は12歳の誕生日。ちょうど入学式の前日に12歳になるのだ。もう少し遅く生まれていたら、来年の入学式まで1年間の猶予があったのにな。
誕生日、目覚めると僕は前世の記憶を思い出した。
そうか、僕は前世で異能者だったんだ。
地球という惑星の日本という国に住んでいた。
僕のおばあちゃんは、ちょっとした魔法が使える異能者だったんだ。
でも、おばあちゃんは魔法を使える事を隠していた。
生きるためにバレないように使っていたけど、そのことは異能者の素質があった僕にしか言わなかったんだ。
「ばあちゃんはね、隠しているけど異能者なんだ。世の中にはいろんな異能者がいるのは知ってるね」
「うん」
「野球の凄い人や相撲の横綱、いつもテストで100点の人。そんな人たちは普通と違う異能者」
「うん、知ってる。ばあちゃんは、どんな能力?」
「ばあちゃんの能力はね、不思議なことがちょっとできる、魔法使いだね」
「魔法使い! でも、どうして隠しているの?」
「そうだね、目立ちたくないからかね」
「そうなんだ」
「そして、お前には凄い魔法を使える力がある」
「え?」
「だけどね、力が強すぎるんだよ。だから暴走しないようにばあちゃんが封印してる。でも、ばあちゃんの力ではずっとは封印できない。
もうすぐ、お前が12歳になるくらいで封印は解けるはず」
「えっ? 魔法の暴走? 僕、大丈夫?」
「暴走しない方法。それは、心を常に何があっても冷静にしておくことかね。難しいけどね。いいかい、心を常に冷静にだよ」
「できるかな?」
「やるしかないんだよ」
そう言ったばあちゃんは、僕にちょっとした魔法を見せてくれた。
それから数ヶ月後、僕が12 歳になる少し前にばあちゃんは亡くなったんだ。
ばあちゃんがいなくて、封印が解けた僕はどうしたら?
僕の精神状態はすごく不安定だったんだろうな。
封印が解けた僕の魔法の力は暴走し、僕はどうやら異世界転生をしていたらしい。
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