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仁礼は時々、こういう眼をする。ビー玉のように澄んだ奥に不思議な色彩が揺蕩い、向けられた者を不安にさせる目だ。
噂通り真鍋が人間蒐集を行っているなら、その標的として如月ほど相応しい者はいない。予告状の『櫻』はその暗喩なのでは、と仁礼は言いたいのだろう。
「……嫌な想像をさせるね、仁礼君」
「無骨な男すら惑わす傍迷惑な顔面を持つのなら、それくらいの危機感を持ちたまえ」
「そう言う君だって、随分な好男子じゃないか」
「私は崇拝、従属の対象となる美形なんだそうだ。飼育し愛玩したいと思わせる君とは、タイプが違うらしい」
「……一体、誰が、そんなことを言ってるんだ……?」
春物の外套の下で盛大に鳥肌を立てながら、震え声で訊ねる如月を、仁礼は哀れむ目付きで見遣った。
「うちの倶楽部の会員は、自身が最高と思う美術品を側に置いて、日がな一日眺め暮らしたいと願う風流人ばかりだよ。その蒐集品に朝彦が入ったところで、どうやってと驚きこそすれ、何故と咎める人はいないだろうね。少々常軌を逸しても美しいものを追求する、むしろ求めるもののためなら正気を失ってもいい――それが彼らの美学なのさ」
耽美主義者の変態に財力を持たせてはいけない。もしその魔の組み合わせが錬成されてしまったら、絶対に近づいてはならない。
騒ぎが収まるまでは、と仁礼が申し出、過保護だと却下していたアストン・マーティンでの勤務先への送迎を、前言を翻し如月は承諾した。
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