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「無駄な努力だと、そろそろ理解してくれないかなあ。僕は華族じゃないし、俸給も薄い大学教員の端くれに過ぎないのに。――それより、三美男子というのは誰が言い出したんだい。勝手に名前を出されても迷惑なんだけど」
「美を愛する同志たちだよ。勿論真鍋さんは君に一票入れている。同じ嗜好の持ち主は、みな君に入れているようだ」
「……美術愛好家の秘密倶楽部なんて、本当に碌なものじゃないな!」
悪態に背を向け、手のひらをヒラヒラさせながら仁礼は出勤していった。
如月の他には、人気役者と仁礼の名が挙がっているという。旧友も同じ見世物になっていることに、如月は少しだけ溜飲を下げた。しかし彼と如月の評価には、非常に大きな違いがある。
仁礼は、従属し奉仕したい美形。如月は、従属させ愛玩したい美形。耽美主義者たちは、そう宣っているらしい。「確かに君は首輪が似合いそうだ」と仁礼に言われた時には、悍ましさのあまり卒倒しそうになったが、そんなのは変態の思考で、自身に過失があるわけではないと如月は証明したかった。
「――柳君。君、人間を飼育したり愛玩したりしたいって、どう思う?」
今日は大学の講義はなく、二人で昼食を摂りながら、如月は訊ねた。まずは、身近なところで如月をよく知る人物の意見を聞きたかったのだ。
風変りな質問にも表情を変えず、柳は淡々と答えた。
「誤解を恐れずに言えば、僕は先生の生活一切の面倒を見てるわけですから、飼育してるとも言えます。しかし可愛いとはまったく思わないので、愛玩はしていません」
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