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鼻で笑うと、柳は片付けに席を立った。
その時、玄関で呼び鈴が鳴り、二人は顔を見合わせた。
「仁礼様でしょうか」
「早く帰るとは聞いていないけど」
「お昼、済ませてくれてるといいんだけどなあ」
片付けは一度で済ませたいのに、とぶつぶつ言いながら迎えに出た柳は、思わぬ人物を連れて戻った。鳴坂署の竹井警部だ。
応接間に場所を移し、如月は向かい合うソファを勧めたが、どっかり腰を掛けた竹井は明らかに不機嫌な顔をしている。
「今日はどういったご用件ですか。予告状の続きは来てませんが」
「どうしてもう一枚の予告状を隠した」
唸るように詰られ、如月は片手で目元を覆った。話が警察に洩れたのだ。
一昨日櫻は、真鍋の素性と二ヵ月前の事件について確認しておくと言っていた。旧友の警視総監に依頼するだけで、事を荒立てないように口止めするだろうと如月は思っていたが、こうして刑事がやって来たということは、そうした配慮はなかったのだろう。
「隠したわけじゃないですよ」
あの伯父はやはり喰えない、と如月は肩を落とす。戦国の世も幕末も御一新後も、あらゆる動乱期を乗り越えて権力の座を保つ家の怪物に、如月如きが敵うはずがないのだ。手元での保護を諦めた時、櫻は警察に家ごと如月を警護させる心算でいたのだろう。
相変わらずマントルピースの上に放置したままのカードを抓み上げ、如月は竹井に手渡した。ざっと目を走らせた竹井の顔は、心なしか強張っている。
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