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櫻から如月の警護を任されているという自負があるのだろうが、こうして警察にバレた以上、警護を離れて元の生活に戻った方が、彼のためなのではないか。如月はそう思ったが、帝国ホテルに一人暮らしの仁礼は、如月と柳との共同生活に、学生時代の寮生活を重ねて楽しんでいる節がある。やりたいようにさせよう、と沈黙を守ることにした。
それに、二十四時間警察に張り付かれるのと、仁礼とその護衛にたまに顔を合わせるのでは、鬱陶しさに雲泥の差がある。
仁礼の拒絶と如月の沈黙を嘲笑うように、竹井は挑戦的に脚を組んだ。
「警視総監直々と言っただろう、間に合ってると言われて引き揚げるわけにはいかないんだよ。――犯行予告日の五日も前から二十四時間警備ってのは、俺も大袈裟だと思うが、侯爵閣下の差し金らしいぜ。文句があるならそっちへ言ってくれ。俺たちは命令に従うだけだ」
「伯父さん……!」
小さな波紋が拡がり、跳ね返って、日常が崩れていく。無害に思える予告状一枚で、こうも容易く人々が巻き込まれ、本当に実行されるのかもわからない事件に踊っている。
この喧騒が犯人の目的なら、実に鮮やかなやり方だ。如月の周囲には、その平穏を破る人物が多すぎる。
(――喧騒……?)
ふと引っ掛かり、無言になった如月の思考を、ノックの音が破る。入室してきたのは柳だ。
「僕もあまり人が増えるのは歓迎しません、仕事が増えそうなんで」
予告状の存在を知りながら平素とまったく変わらない唯一の人物は、鋭く眼光を飛ばす竹井にも臆さず、つけつけと自分の意見を述べた。
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