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きた、と思うと同時に心臓が大きく波打った。
上司と思しき男性とともに事務所に入ってきた小野田志津子の姿を一瞬のうちに認めると、斉藤はまるで何も気づかなかったふうを装って作業中の複合機に目を落とした。
二人一組で毎月、事務所内のリース契約している機器の点検と備品の補充にやってくる。今日はその点検外の日だが、会議の当日、緊急に故障したので呼び出された。
「どうですか、直りますか」
いらいらした気持ちを抑えたような低い声で若い女性社員が声を掛ける。
「これはいったん持ち帰って修理するので、同じ機種のものをお持ちします」
複合機に向かってしゃがんだ姿勢のまま答えると、一緒に点検をしに来た後輩は同意するようにうなずいた。
「あと一時間で会議なんです。どうにかなりませんか?」
少し語気を強めて女性社員が言うと、斉藤は立ち上がり、
「無理です。簡単に言うと使い過ぎで熱をもってしまってるので、インク噴出部が動作をセーブしているんです」
女性社員は、はあ、と大きくため息をつき、課長席の小野田志津子に向かって、どうしましょう、と焦りと混乱の声を出した。
このスズコウ建設は三重県に本社があり、関東支店はビル五階のワンフロアで営業しており、A3カラーでプリントできる機器はこの一台のみである。
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