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また会えたね。
「こんな時期にマネージャー?」
情報通の上杉に僕は怪訝な表情を向けた、高校三年の夏。甲子園のラストチャンス。僕らは最後の青春を前に真っ黒に日焼けしていた。
「ああ、キコクシジョってやつよ」
「マネージャーが入ってもチームは強くならないからなぁ」
今年は甲子園も狙えるチームが出来上がった、キャプテンとしても、エースとしても気合いは半端じゃない。
「ところがとんでもない美女なんだってよ」
ホームルーム前のざわつく教室で上杉は身を乗り出した。なぜか小声だ。
「興味ないね」
野球、勉強、野球、勉強。それだけを死に物狂いでやってきた。その結果には両親も満足している。
「ほらー! 静かにしろー。朝礼はじめるぞー」
担任が出席簿をパンパンッと叩きながら教室に入ってきた。
「転校生を紹介するから、みんな仲良くなー」
一気にクラスがざわつく、僕は頬杖をつきながら暗記カードを眺めていた。
「それじゃ一条さん、入ってー」
その言葉にピクっと反応した。暗記カードの手が止まり入口に視線を向けた。
カラカラと教室の扉が開く。茶色がかったフワフワの髪に大きな瞳。クラス中から歓声が上がる。
「初めまして、一条麗華です」
嘘だろ。
「彼女はお父さんの仕事の関係でイタリアから――」
僕は惚けたままずっと彼女を見つめていた。成長して大人になった彼女を。
「席はそうだなー」
「先生?」
「ん、なんだ?」
「私、あそこの真っ黒く日焼けした、坊主頭の」
彼女がまっすぐ僕を指差した、みんなの視線が集まる。
「ああ、秀作か?」
「彼の隣が良いんです、絶対」
それはもう、私が決めたからにはそうならないはずはない。そんな話し方だった。
「ああ、近藤、いいか? ズレてもらって」
「いっすよ」
彼女が僕の隣に座る、心臓のドキドキが止まらない。暗記カードの一番最初に目を落とす。
『See you later』
彼女はゆっくりと僕の方を見て言った。
「また会えたね」
二人の声が重なった――。
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