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出会い
長くふわふわの髪はちょっとだけ茶色い、大きな瞳は少しだけつっていて猫を連想させる。いや、つっけんどんな態度が余計にそう見せるのかも知れない。
「麗華」
自己紹介で無愛想にそれだけ言って、さっさと席に着く様子を担任の先生もぽかーんと口を開けて見ていた。
小学五年生の五月、なんとも中途半端な季節にその女の子は転校してきた――。
「秀作、キャッチボールしよーぜ」
「ごめん、塾があるんだ」
四年間続けた大好きな少年野球は辞めた、辞めさせられた。それがお母さんとの約束だったから。
『五年生からは勉強に集中しなさい』
中学受験を控える僕は友達とキャッチボールする時間も無い。
友達は一人、二人と離れていく。みんなが昼休みに少年ジャンプの話で盛り上がってる時に僕は英単語の暗記カードをめくってた。
「何よそれ?」
頭上から非難するような棘のある声が降り注いできて僕は顔を上げた。ふわふわの髪……。彼女だ。
「見せて」
「あ、うん」
暗記カードを渡すとパラパラとめくりながら頷いている、フランス人形みたいなきれいな顔。心臓がドキドキした。
彼女がめくっていた手が止まる。
「ぺん」
「え?」
「ペンかして」
「あ、うん」
僕がえんぴつを渡すと暗記カードにサラサラと何か書いている。
「ありがと」
それだけ言うと席に戻って本を読み始めた、僕とは違う理由で彼女もまた、一人きりでいる時間が多かった。暗記カードに目を落とす。
『See you again』
の上から斜線でバツが付いている。その下に。
『See you later』
裏に書かれた日本語訳は『また会いましょう』。そこは訂正されていない。
僕は訳もわからず茫然としながら彼女の事を見つめた。寂しそうに本を読む彼女の後ろ姿を。ずっと――。
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