金魚の恩返し

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    「あら、こんなところにも金魚!」  隣を歩く高梨さんが、可愛らしい声を上げる。  私たちの仕事は金魚とは縁もゆかりもないのだが、たまたま取引相手の会社が大和郡山市にあり、金魚の名産地が今回の出張先となっていた。  肝心の仕事は終わり、みやげものを買おうと思って商店街をぶらぶらすれば、歩道脇のポールやフェンス、マンホールや石碑など、いたるところに金魚の絵が描かれている。そんな中、一軒の店先に置かれた水槽を見て、高梨さんは興味を惹かれたようだった。 「なるほど、さすが『金魚ストリート』だね」  ガイドブックで聞き齧った言葉を口にしながら、彼女の背中を追う格好で、私も水槽に近づいてみる。駅にあるような自動改札を模した形状であり、その上半分に水が満たされて、金魚が気持ちよさそうに泳いでいた。 「わあ、可愛い!」  少し腰をかがめるような姿勢で、水槽に顔を近づける高梨さん。  確か私より7つ年下のはずだが、こうしていると、もっと若く見える。まだまだ青春真っ盛りの、学生みたいな雰囲気を感じてしまう。  その横顔に見惚れていると、彼女は視線を金魚たちに向けたまま、面白いことを言い出した。 「実は私、小さい頃から、よく金魚の夢を見るんです。ちょうど、こんな感じの金魚で……」  どうやら高梨さんは、私が思っていた以上に金魚大好きな女性らしい。 「金魚といえば、不思議というほどではないが、私も子供の頃、印象に残るエピソードがあるよ」  話を合わせる意味で、ついそんな言葉を口にしてしまった。  別に彼女の話を遮るつもりはなかったのに、高梨さんは口を閉ざして、私の方に顔を向ける。続きを促す目をしていた。  仕方がないので、先に私の逸話を披露する。 「ああ、うん。あまり期待し過ぎないで聞いてほしいな。本当に小さかった頃の話で……」    
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