二季と尋

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 ぐっと唇を噛みしめた僕の手を、ひんやりとした手が包み込んだ。はっと顔を上げると、二季が手を握ったまま僕の顔を見上げていた。  その顔は、ただ嬉しそうだった。 「尋。そんな顔をしないで。私は、君が帰って来てくれたことが一番嬉しいんだから」 「……二季」 「だからね。もし良かったら、また私と一緒に遊んでくれる?」  そう言った二季から、ふわりと何かが(かお)った。その匂いが分かった僕は、ああ、と目を細めた。  いつも、二季のことを考える度によぎった匂い。  あの桜並木で出会った時も、二季が纏っていた匂い。  二季の匂い。  僕の、大好きな花の匂い。 「もちろんだよ。僕たちは、友達なんだから」  その答えに、二季は一瞬目を丸くしたのち、くすぐったそうに頬を緩めて、ありがとう、と小さく囁いた。  笑い合う僕と二季の間をふわり、風が通り抜けていく。  淡い紫色のカーテンが揺らめく約束の地で、甘い藤の香りは優しく二人を包んでいた。                               完
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