2人が本棚に入れています
本棚に追加
驚きの発言だった。
服装も年齢も学生なのに、彼女は働いているというのだ。
「あら、勘違いしないでくださいね。仕事といっても、お金のためじゃなくて、いわば能力を活かしたボランティアで……」
「能力……?」
「もちろん能力だけじゃなく、道具も使いますけどね」
これがその道具だと言わんばかりに、手にしたネコジャラシを振ってみせる。
足元の黒猫が「にゃあ」と鳴いた。
「あらあら。この子ったら、これ、ネコジャラシか何かだと思ってるのかしら。困っちゃうなあ」
軽く苦笑いしてから、少女はこちらに向き直る。
「本当は、自分で思い出してもらう必要あるんですけど……。ちょっとだけヒント与えますね。あの花、なんだかわかります?」
彼女が指差したのは、先ほど私も気づいた赤い花だった。
改めて注目してみると、とても特徴的な花の形をしている。昔々、植物図鑑か何かで見たような……。
「確か、彼岸花だったかな?」
と口にした途端、強烈な違和感を覚えた。
暑さ寒さも彼岸まで。そんな言葉があるように、彼岸花は秋分の頃に咲く。早くても夏の終わりであり、今頃開花する花ではない!
「まだ今は夏の真っ盛り、お盆の時期のはず。だからこそ私は……」
突然、全てを思い出す。しかし同時に、あまりの驚愕に襲われて、その先は言葉にならなかった。
唖然とする私の表情を見て、彼女は嬉しそうに叫んだ。
「そうです! ようやく思い出してくれましたね!」
「あの世から戻ってきた魂の中には、こちらで過ごすうちに自分が死んでること忘れて、あの世へ帰りそびれる者も出てくるんです。そういう迷える魂を来年のお盆まで保護するのが私の仕事で、お爺さんもそういう迷える魂の一人でした」
彼女は親切に説明してくれる。
自分が何者なのか悟った今、私にもお化けが見えるようになっていた。
少女の周りには、ふわふわした白い存在がたくさん。塀の上に乗ったり、木に登ったりしながら、彼女から離れすぎない辺りをウロウロしている。
少女の目には、私の姿もあのように見えていたのだろう。
「ああ……。来年までお世話になります」
「ええ、もう迷わないでくださいね」
軽く頭を下げてから、私もお化けの集団に加わった。
(「またお会いしましたね」完)
最初のコメントを投稿しよう!