さよなら、灯台と初恋

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さよなら、灯台と初恋

 人間に正体が知られてはいけない。そんな規則でもあったのかもしれない。何かが成仏の鍵となり、旅立ってくれたのなら僕の気まずさも救われる。いや、情けなさがだろうか。どちらにせよ、失恋に代わりはない。  例の日以降、彼女は姿を見せなくなった。夏休みが明け、もう一週間通っているが足音一つ聞こえてこない。いや、足音なんてそもそもないだろうけど。  あの時、場を和ませる為の冗談だった、と括っていれば良かった。何食わぬ顔で横を埋めれば良かった。後悔など意味を持たないと、分かっていてもループさせ続けてしまう。  形あるものはもちろん壊れるし、形がないものも気付いたら壊れてしまうんだ――なんて自作のポエムを詠んでみる。少しは馬鹿らしくなれるかもと期待をしたが、期待した効果は得られなかった。  海を眺めようと努めても、勝手に横へと視線が傾く。ここは嘗て、落胆や考え事を波に流す場所だった。しかし今は、灯台に収まることで憂いてしまう。  ……なんて、それでも来ちゃうんだけど。でも、それだってもうすぐ終わりになる。 「一ヶ月後かぁ……」  この夏、急遽灯台の取り壊しが決定した。母親に他愛ない話として聞かされた時は、思わず食いついて驚かせたものだ。僕が知らないだけで、長く検討されていたのかもしれないが。 「寂しいなぁ……」  私もだよ――なんて声を描き、出入り口を見やる。だが、同調するのは伸びた自分の影だけだった。
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