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二人だけの海
探求心と執着心に突かれ、僕と彼女の対面はなんと六回に到達した。週一で行くか否かのペースで赴いたが、彼女は必ず椅子の右端を陣取っている。しかし、未だに僕は彼女の名前すら知らなかった。
と言うのも、「な、名前なんて言うの? あ、僕は長谷川守……なんて興味ないよね」と歯切れ悪く紹介を求めても、勇気を絞り学校を尋ねても、灯台に訪れる理由を聞いても、決まって視線を一瞬傾けるだけだったからだ。
ただ、「海、綺麗だね」と語りかけた時だけは、一瞬錯覚を疑ったほど小さく頷いてくれた。だからその時から彼女が人魚的な何かで、声を持っていないのだと思うことにした。話さないのではなく、話せないのだと。
数日もすれば夏休みになる。その間、僕は家に籠るつもりでいるが、彼女はここに訪れるだろうか。
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