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結局、休みの間、僕は一度も家を出なかった。単純に、冷房の心地よさが勝利してのことだ。しかし、延々と彼女のことが気にかかっていた。寝ても起きても、数少ない情報と横顔ばかり反芻してしまう。
夏を経て何か変化しているだろうか――期待半分に赴いた灯台には、何も変わらない少女がいた。服の素材は、少し薄くなった気もしたが。
それからも、同じ距離感のまま僕らは会い続けた。
静かに歌う波音は、僕らの間を埋めてくれる。さすがに十二回目ともなれば、沈黙さえ味になりかけていた。
相変わらず、今日も彼女は話さない。ただ、僕が一方的に一言か二言、声を飛ばしては頷くだけだ。だが、イエスかノーの問いならば大抵答えをくれる――判明してからは随分話しやすくなった。回数を重ねた分、勇気の準備量が減ったのも大きいだろう。
今や、毎週土曜に必ず通ってしまうほど、二人の空間が心地よくなっていた。
因みに、彼女は推定通り高校生だった。学校に通っているのかは、無反応だったため分からない。
海は好きで夕日も好き。春と秋は好きで、夏と冬は不明。甘いものは好き。猫も好き――そんな一見実のない情報を得る度、嬉しくなった。
心が彼女で埋まる度、幸福に満ちる感覚を味わった。恋していると気付くのにきっかけは要らなかった。
僕は彼女が好きだ。自覚したところで、何かが変わる訳じゃないけど。いや違う。何も変わらなくていい。灯台で会える、それだけで。
事件が起こったのは、十八回目を記録した直後だった。僕を待っていたのは、空っぽの椅子だった。
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