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明日から夏休みに突入する。今年も去年同様、涼しい部屋と同化することになりそうだ。コンビニで購入したアイスを、齧りながら階段を上る。壁に覆われた空間は、既に熱気で重くなっていた。
休暇が訪れる前に、一度だけでも会いたいなぁ――期待への裏切りを覚悟し、最後の一口と同時に最上階へ踏み込む。
だが、視界に飛び込んだのは裏切りへの裏切りだった。
「んあっ!」
願っていた光景を前に、声が先に彼女へ飛び付く。思わず溢れた声に僕自身も、そして彼女も驚いていた。僅かにすくませた肩を下ろし、美しい顔を振り向かせる。変わらぬ無表情を目に、安堵が舞い降りた。
「会えてよかったー! もう来ないかと思った!」
そして口走ってもいた。
あっ、これじゃただの気色悪い人じゃんか! と、狼狽える。だが、上乗せする台詞を、速攻で見つけ出せるほど器用ではない。焦りに爆速で追い詰められる中、聞こえた。
「会いたかったの……?」
波に紛れそうなほど儚い声だった。だが、確かに聞こえた。初めて耳にする声に驚き、条件反射的に肯定する。
変な顔でもしていたのか、少女は仄かに微笑んだ。キューピットの矢がめり込むとはこの事か――なんて例えを実感し、衝撃に数秒固まる。
僕の場合、恋の自覚はしていたけど。しかし、今この瞬間何倍にも膨れ上がった。
あまりの愛らしさに立ち尽くしていたが、不意に我に帰る。残っていた判断力を働かせ、妙な空気になる前にと腰を下ろした。
“普段通り”になる前に、名前くらいは聞いておきたい。願望こそ一人前にあったものの、ハードルの高さも相当だった。敢えて尋ねる勇気は豆粒より小さく、僕を勝手に無口にさせた。
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