08.それはところどころ白濁した

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08.それはところどころ白濁した

 老賢人は建物の壁に打ちつけたゆでたまごに入ったひび割れを、今度は指で取り除く。その瞬間、上空から巨大な何かを剥ぎ取るようなすさまじい音が街に響きわたる。  道を歩いていた人々は突然の揺れに続いてやってきた大音響に、驚愕の表情で空を指さす。ホームレスも人々が指さす空を見上げる。  青空が大きく裂けていた。巨大な裂け目が青空に走っていた。そればかりか、青空の裂け目の向こう側に巨大なしわだらけの指が現れ、青空のひび割れを剥ぎ取っていった。  すると、ふたたび巨大な何かを剥ぎ取るような、すさまじい大音響が街に響きわたる。そして、青空のひび割れが広がった。  道行く人々の中には思わず耳をふさぐ者も、両手で頭を覆う者も、ここから逃げようと走り出す者もいる。  ホームレスは息を飲んで老賢人に視線を向ける。この老人、いったい何をしでかしたんだという目で。  老賢人はそんなホームレスにニヤリと笑い、それから手に持ったゆでたまごのひび割れをのぞき込む。  街の人々がまた叫び声を上げ、青空に向かって指をさす。ホームレスは空を見上げる。  青空の巨大な裂け目から、巨大な眼球が地上をのぞき込んでいた。  それはところどころ白濁した老人の眼球。そんな老人の巨大な眼球が、青空を見上げたまま驚愕の表情を浮かべるホームレスの姿を捉えた。 (おわり)
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